朝…

〈アオシ視点〉









アオシ「・・・寝たか…」





夢乃は寂しさを感じた時なんかに

甘えて俺の周りをうろつく…




今晩は…俺の布団で

寝ようとするんじゃないかと思っていたが

テーブルの端にある時計は深夜1時を回っていて

自分の部屋で寝たのかと思いながら

本を閉じて部屋の明かりを消そうと

立ち上がった






アオシ「・・・・・・」






お経を読んだ後も

庭から離れようとしなかった夢乃の姿が 

頭をよぎり、俺は明かりを消さずに

部屋を出て居間の方へと歩いて行った





( ・・・やっぱりな… )






縁側のある窓から鶏が埋めてある辺りを

眺めている夢乃の姿があり

しばらく後ろから見ていたが

動く気配のない夢乃に小さく

タメ息を溢しながら近づいて行った





アオシ「・・・冷えるぞ」






夢乃は寝巻き用の服しか見にまとってなく

足も素足のままだった






「・・・・土の中はもっと寒いのかな…」





アオシ「・・・風がない分…温かいかもな」





「・・・苦しくないのかな…」






もうこの世に魂の無い

あの体にはそんな事を感じる感情はない…






アオシ「・・・もう…あそこにはいないだろうな…」





「・・・・・・」





アオシ「・・後生ごしょうへの船に乗ったと思うぞ」





「・・・・次は……古屋のある家で…ッ

   幸せに暮らしてほしいッ…ニーコ……」






服の袖でゴシゴシと目元を擦っているから

また…泣いているんだと分かり

「来い」と言って夢乃の手を引いて

自分の部屋へと戻り

夢乃を俺の布団に寝かせた





「・・・・今日はギュッてして…」





アオシ「・・・・明かり消すぞ」






夢乃と同じ布団で寝ても

背中を向けて寝るばかりで

夢乃の方を向いて眠った事は一度もない






アオシ「頭上げろ…」






夢乃の方へと腕を伸ばし

腕枕の様に夢乃の頭下に自分の腕を差し込み

夢乃の冷えた体を自分の胸の中へと抱き寄せた






( いつからあそこにいたんだ… )






アオシ「・・・明日は何もしなくてもいい…」





明かりを消す時に見た時計は

1時半をさしていたから

あと2時間半もすればまたいつもの朝が始まる…






だが、ニーコ《家族》を失った夢乃には

休む時間が必要なのかもしれないと思った…






アオシ「ゆっくりと眠ていろ」





「・・・ッ…」






俺の胸元の服を掴んで

小さく震えるその背中を撫でながら眠りへとつき

次に目を覚ました時には夢乃の姿はなかった





自分の部屋へと戻ったのかと思い

夢乃の部屋を覗いたが

布団は畳まれたままで

また庭を眺めているのかと居間へと行くと

居間の明かりはついていて

カーテンも開けられていた





俺は窓へと近づいて行き

夢乃がまた墓の前で泣いてるのかと思ったが

夢乃の座っている辺りから白い煙が見え

何をしているのかが分かった






アオシ「・・・・とむらってやってんのか…」







父「アレに線香をあげているのか?」








後ろから聞こえてきたオヤジの声に

驚いて顔を向けると

オヤジは俺の隣りへと歩いてきて

夢乃の背中を眺めている






アオシ「・・・昨日は…夢乃が生意気な口を…」






そう言って住職であるオヤジに頭を下げると

オヤジは何も言わずに夢乃に顔を向けていた






アオシ「・・・今日は…休ませます…」






線香をあげ終えたら

夢乃じぶんの部屋で寝かせようと思い

住職に断りを入れると

「その必要は無い」と言うオヤジに顔を上げた





アオシ「一日だけでいいです…」





父「・・・本人に…その意思はないようだ…」






オヤジの言葉に「は?」と言って

夢乃の方を見ると

立ち上がった夢乃の服には

いつものエプロンが身につけられていて…




線香の横には昨日買ったトウモロコシが…

仏壇用に使う…高い仏飯器ぶっぱんきに入れて置かれていた







父「・・・・・・」





アオシ「・・・すみません…」





父「お前も早く着替えて寺に行きなさい」






そう言うとオヤジは

自分の部屋のある方へと歩いて行き

仏飯器の事を俺や夢乃に咎める事をしなかった









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