〈アオシ視点〉










「オヤツとかはありますか?」






アオシ「・・・犬猫じゃねぇんだから

  鶏にオヤツなんかあるわけねぇだろうが」






世間一般的に見れば

〝鶏〟は…家畜だ…

家畜にオヤツを与えるなんて聞いた事がねぇ…






亭「オヤツかぁ…笑

  トウモロコシなんかがそうかもな?」





「とうもろこし?」





アオシ「・・・・・・」






夢乃はあの鶏を家畜としては見てねぇし

亭主の出してきた

トウモロコシの入った袋を手に取り

「ご褒美にあげようかな」と

子供に駄菓子でも買ってやる様な顔をしている






亭「へへ…弦蒸寺の鶏は

   この辺りで1番幸せな鶏かもな?笑」






「今日も出掛けようとしていたら

 泣いて甘えてたきたんですよ?笑」






亭「えらい懐きようだね?笑」






コイツが無駄に可愛がれば可愛がるほど

春先の俺たちの苦労が目に見える気がした…





( ・・・餌にオヤツか… )





卵を毎日産んだとしても

そんなにメリットがある様には思えず

店内を見渡しながら

数ヶ月前にあの鶏を買ったオヤジに

何で買ってやったんだと言いたくなった…





「早く!ニーコが寂しがって泣いてるから」






車に乗った後も

早く走れと隣りで文句を言う夢乃に

「ひっくり返って寝てんじゃねぇか」と

言ってやればバシッと腕を叩いてきやがった





( 相変わらず可愛くねぇガキだな… )






アオシ「俺たちの飯の準備は出来てんだろうな?」





「ちゃんと準備してきたもん!早く!!」






今日はオヤジの遠方のお参りに

お袋もついて行っていて

夕飯の準備は夢乃一人だ…






アオシ「・・・また甘たらしい煮物か?」





「甘らたらしいって何よ…

 美味しかったじゃない…

 それに今日のは特別に美味しいんだから!」





そう言って「頑張ったからご褒美あげなきゃ」と

後ろに積んであるトウモロコシ袋を見て

「ふふ」と笑っている夢乃を見ながら

ここ数日、朝飯に卵が出ていなかった事を思い出した






( ・・・頑張った? )






家に帰り着くと

駐車場にはオヤジのお参り用の

車が停まっていて

もう帰っているのかと思い

シートベルトを外して

後ろから餌の袋を取り出していると

「コッチは私が持つ」と

トウモロコシの袋を胸にかかえて

「ニーコ喜ぶかな」と早足で

母屋側へと歩いていく背中を見ながら

「はっ…」と呆れた笑いが出た





アオシ「鶏様々だな…笑」





後を追って行くと

家の少し手前に夢乃と…オヤジの姿があり

オヤジが夢乃の腕を掴んでいるのが見えた




また何か問題でも起こしたのかと

俺も早足で二人に近づき

「戻りました」と声をかけると

オヤジは俺に顔を向けて

「片付けてやりなさい」と言ってきた





アオシ「片付ける?」





父「・・・・・・」






夢乃は眉を寄せて不安気な顔をしたまま

手にあるトウモロコシ袋を

ギュッと抱きしめていて…

オヤジは夢乃の腕を離そうとはしない






アオシ「何かありたしたか?」





父「・・・奥にいけば分かる…」





アオシ「・・・・・・」





「・・・・あの……ニーコは?」






夢乃が帰って来たのに

鳴き声をあげる事も

駆け寄ってくる事もしない鶏に

俺も不思議に思いオヤジに顔を向けると

オヤジは何も言わないまま首を小さく振った





アオシ「・・・・・・」





俺はオヤジの横を通りすぎ

奥の母屋へと歩いて行き

何故オヤジが夢乃の腕を掴んで

中に通さないのかが分かった…





アオシ「・・・・コレ… 」





よく鶏が歩いている台所奥の…

林がある近くに赤いものが飛び散っていて

夢乃が肩につけていた白い羽も…

そこら中に落ちていた…





母「あっ……お帰りなさい…」





台所のガラス扉から

お袋が新聞紙と袋を持って現れ

何をする為に持って出て来たのかも察しはついた






アオシ「・・・俺がする…」





母「・・・夢乃さんは?」





アオシ「オヤジと向こうにいる…」



 



お袋は自分の手をギュッと握りしめた後に

夢乃がいる方へと歩いて行き

俺は飛び散っている血が濃くなっている方へと

足を進めて行き自分の目に映る現実に

思わず目を閉じてしまった




( ・・・・・・ )





「ニーコッ!!」





夢乃の叫び声が聞こえてきて

パッと目を開けて振り返ると

お袋から話を聞いたであろう夢乃が

顔を歪めてコッチに走って来ているのが見え

慌ててコッチに来ようとしている夢乃を止めた






「嘘なんでしょ……ねぇ…」






アオシ「・・・・・・」






「皆んなでッ……からかってるん…ッでしょ?」






アオシ「・・・・アッチに行ってろ…」






俺を推しのけて奥に行こうとする

夢乃の肩を掴んで

「部屋の中にいろ」と言うと

ジタバタと暴れていた夢乃の動きがピタリと止まり…





夢乃のが俺の腕の向こう側を見ている事に気付き

グッと抱き寄せて

夢乃の顔を俺の胸の中へと閉じ込めた







「・・・ニーコの……血…なの?」






アオシ「・・・・・・」






「ねぇ……ねぇ…ッ…おじさん…」






アオシ「・・・見るな…」






「だってッ……さっきまで…えんがッ…わで…

  お昼寝して…ッ…たんだよ……ねぇ…」







「離して」と俺の胸を叩く夢乃を

更に強く抱きしめて

「見るな」としか言ってやれなかった…

















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