ニーコ…

〈ユメノ視点〉








「よしッ!」





夕飯の下拵したごしらえを終えて

お鍋に蓋を乗せながら片手を

後ろに回してエプロンのリボンを

シュルリと解いた




台所用のサンダルから足を抜いて

居間に小走りで上がり込むと

電話横にあるメモとペンを手に取り

買い物に行ってきますと

お母さんにメモを残した





「・・間に…合うわね!笑」






顔を上げて居間の壁にかけられている

時計を見ながらそう呟き

コートを着て外に出るとニーコが近づいて来た


 



「ふふ…ご飯買ってくるからね?」






そう言って頭を軽く撫でて行こうとすると

鳴き声を上げて後をついて来るから

「ダメよ」と言って

いつもニーコがいる台所前の広場を指差すけれど

離れようとせず私の足の周りを

クルクルと回っている





( ・・・お母さんもいないからな… )





大抵は私が買い出しに行っても

お母さんがお寺か家にいる…




誰もいない敷地に

寂しさを感じているのかなと思い

ニーコを抱き上げて

縁側の前にまで行き

「よいっしょ…」と

オバさん達がよく遣う用な言葉を口にしながら

ゆっくりと腰を降ろした





「ババくさくなっちゃったよね?」





ニーコの頭を撫でながら

そう問いかけると

ニーコは私の膝の上で周りの景色を見ていた






「泣いて甘えてたくせに無視?笑」






お昼の3時のいい感じの陽射しの中

こんな田舎の縁側で

鶏を抱っこしているなんて

夏頃の自分では想像出来ないなと笑って

ニーコの様に高台からの景色を

ぼーっと眺めながら

「お母さんの言う事をちゃんときくのよ」と

春からの事を口にした






( おじさんには懐いてるし…大丈夫かな )






ニーコは少し甘えん坊な所があるし

春になって私がこのお寺から出て行ったら

寂しがってまた…

ご飯を食べなくなるんじゃないかと心配だった…






「・・・連れていけないしなぁ… 」






ハムスターや金魚くらいなら

連れて帰れるだろうけど

ニーコは無理かなと考え

腕の中のニーコに顔を向けると

目が閉じかけていて

眠りそうになっていた





「・・・お昼寝の時間ね?笑」





ニーコをゆっくりと下に降ろして

そのまま撫で続けていると

シパシパとしていた目は完全に閉じて

眠りについた様だ





「ご飯…買ってくるからね」





そう小さな声で話しかけて

音を立てないように

ゆっくりと立ち上がり

そーっと離れて行き階段を降りながら

広い庭のある此処にいる方が

ニーコにとっては幸せだろうなと思った





「おじさんにも卵が必要だしね」





坂の下からニーコが眠っている庭辺りを眺め

「直ぐに帰るからね」と言って

スマホの時計を見ながら

商店街の方へと走り出した




以前お父さんが買って来た

ニーコのご飯が

もう直ぐ無くなりそうで

買いに行こうと思っていたけど…






「おじさんも商店街にいるなら

  帰りは乗せてもらおう!笑」






ニーコのご飯は袋に入って売っていて

大きく結構な重さもあるから

アレを持って歩いて帰るのは

キツそうだなと思い

おじさんのお参りが終わる時間に合わせて

商店街に買いに行くことにした




いつもは歩いて買い出しに行くけれど

甘えるニーコの相手をしていて

家を出る時間が遅れてしまったから

小走りで離れた商店街へと行き




スマホを確認すると3時40分になっていて

おじさんがお参りを終えてしまったかなと思い

ニーコのご飯を買う前に

おじさんを探す事にした





「あっ!!いた!」






顔をキョロキョロとさせて

歩いているとあるお店の角から

おじさんの黒い袈裟が少しだけ見えていて

便利な服だなと思い笑いながら近づいて行き

「おじさん!」と声をかけて

後ろから抱きつくと

おじさんの前には満太朗さんと麗子さんがいた…





「・・・ぁっ… 」





麗子さんはおじさんの腕を掴んでいて

その目は…泣いているのが分かった




きっと…この前のお見合いに

おじさんが行かなかった事で

何か話していたんだろうと思い…






占「アナタがそうな様に…

  相手の蓬莱蒼紫も…

  アナタとのえにし線に引かれ

  本来の糸とは結ばれませんからね」






私が側にいる事で

もしかしたら、おじさんも

麗子さんとの縁が薄れてしまったのかなと考え

どんな顔をして麗子さんを見ていいのか

分からなかった…





( ・・・・・・ )






アオシ「・・・此処ここでなにしてんだ?」





おじさんの声が聞こえても

顔を上げれずにいると

スッと私の肩におじさんの手が伸びてきて

その手は直ぐに私の顔の前に出された





「・・・あっ…笑」






おじさんが差し出したのは

ニーコの羽で

抱っこした時についたんだろうなと思い 

顔を上げると

おじさんの顔も笑っていたから

私も…気付けば笑って話していた…





おじさんの奥にいる麗子さんの手は

まだ…おじさんに伸びたままで

自分がお邪魔虫なのも分かり

ペットショップへは

一人で行こうかなと思っていると

満太朗さんが麗子さんの手をとって

「行くぞ」とその場から離れて行き…






( ・・・・・・ )






すれ違う時に私を見ている

麗子さんの目は…

私に対してどんな感情を持っているのか

ハッキリと分かる目だった…







「・・・・ごめんね…」






アオシ「・・・・・・」








不味いタイミングで現れた事を

おじさんに謝ると

おじさんは何も言わずに私を数秒見た後

「行くぞ」と言って歩き出し

「えっ?」と後を追うと

「餌を買いに来たんだろうが」と

ペットショップへと向かっているのが分かった





( ・・・春になれば… )






春になれば

私達は離れてえんも薄れ…





おじさんと麗子さんの間に

もしも…運命線の赤い糸があれば…

元の婚約者に戻るかもしれない…






( ・・・春になったら…ちゃんと返すから… )








えさじゃなくて!!」






アオシ「・・・・・・」





























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