呼び名…

〈ミツタロウ視点〉








女「また油が上がるってよ」





女「粉物も上がったばっかりなのに」







( ・・・・・・ )






オバさんって言うのは…

買い物を終えても

さっさっと帰らないのは何故だろう…




口では「アレしてコレして大変」だとか

言っているが立ち話を始めたら

必ず15分は足を動かさないし

長い時は30分〜1時間なんてザラだ…





( 帰って家事をした方が… )





混ざる様な会話でもないし

伝票を眺めながら

帰るのを待っていると

会話の流れは蒼紫達に向いた






女「麗子ちゃんも可哀想にねぇ…」





女「ねぇ…」






( ・・・まぁ…そうだよな? )





婚約者である夢乃ちゃんがいるのに

別でお見合いをしようって話の方が変だ…




餅つきの時は

夢乃ちゃんを見る蒼紫の顔に

違和感を感じたが…





( ・・・気のせいだな… )





元々そういう感情を表に出すタイプでもないし

俺たちの知らない所では夢乃ちゃんにだけ見せる

優しい顔もあるんだろうと思った






女「あんなに待たせて…

  麗子ちゃんも今年30になるし…

  今から他でなんて言われてもねぇ?」






女「蒼紫君もそういう所を

  ちゃんと考えてあげなきゃねぇ…」






( ・・・言いたいほうだいだな… )






聞こえる会話に呆れながら

頬のあたりをポリポリとかいていると

店の前を蒼紫が歩いているのが目に入り

お参り中かと目で追うと

その直ぐ後ろを麗子が何かを言いながら

追いかけている姿も目に入ってきた…





女「・・・あらっ!?」





オバさん達も見た様で

楽しげな声をあげているから

「ちょっと…」とオバさん二人の間を通り

店から出て蒼紫達の後を追った





( ・・・二人はまずいだろ )






年末の…餅つきの時の

夢乃ちゃんを見ていたら…

ダメだと思った…





また変な噂がたって

夢乃ちゃんが…

居づらくなるんじゃないかと思ったからだ…





ミツタロウ「蒼紫!」






蒼紫の袈裟が見えたその角を曲がると

麗子が蒼紫の腕を掴んで何かを話していた





アオシ「・・・・・・」





蒼紫は表情を変えずに

俺に顔を向けているが

麗子の顔は少し歪んでいて目が…潤んでいた…





( ・・・可哀想…かもな… )





さっきのオバさん達の会話を聞きながら

勝手に周りが盛り上がっていただけで

蒼紫は悪くないだろうと思っていたが

麗子は蒼紫とは違い…





( ・・・ずっと好きだったろうからな… )






「蒼君、蒼君!」と言って

蒼紫に引っ付いて回っていたし

それなりの歳になれば

異性として意識し出し

周りが「お似合いだ」

蒼紫の坊守は麗子だと騒いでいたのに合わせ

落ち着いた立ち振る舞いをする様になった





きっと…坊守になりたくて…

蒼紫の母ちゃんを真似て

そうしていんだろう…






レイコ「・・・蒼君…」





アオシ「・・・・・・」






夢乃ちゃんの事を思って

追いかけて来たが

俺が此処にいちゃいけない気がしてきて

どうしようかと考えていると

「おじさんッ!」と

夢乃ちゃんの明るい声が聞こえたと同時に

蒼紫の黒い袈裟の脇から

白い手がヒョイっと出てきて

蒼紫の腰回りに巻き付いた






( ・・・おじ…さん? )






このタイミングに現れたのも…

現れ方もアレだが…

それ以上に夢乃ちゃんの蒼紫を呼ぶ

呼び方の方が引っかかった





ミツタロウ「・・・・・・」





蒼紫の背中から顔を出した夢乃ちゃんの顔は

ニコニコとした表情から

コッチを…麗子を見た瞬間に

固まって気まずそう「ぁ…」と呟きながら

蒼紫の腰にある手をパッと離した





( ・・・・ん? )





離れたのは夢乃ちゃんの手だけで

蒼紫の腕に手を伸ばしている

麗子は夢乃ちゃんを見ても

手を離す事はなくまだ掴んでいて…

まるで立ち場が逆に見える…





なんか…正妻と別れ話をしている所に

タイミング悪く現れた

浮気相手みたいだな…






( 前の夢乃ちゃんなら… )






蒼紫に触っていたオバさん達にした様に

腕でも絡ませて挨拶でもしそうなのに

今目の前にいる夢乃ちゃんは

下を向いて目を泳がせている…






アオシ「・・・此処でなにしてんだ?」






蒼紫は夢乃ちゃんの方に顔を向けて

そう問いかけながら

小さな肩に手を伸ばして

何かを掴むと顔の前にその手を差し出した




夢乃ちゃんは顔を上げて

蒼紫の指先にある白い何かを見ると

「あっ…」と言って小さく笑っている





( ・・・少し…変わったな… )





初めて会った時の二人とも…

餅つきの時の二人とも…

少し変わった気がした…






「出掛けようとしたら

 寂しがって鳴くから…

 しばらく抱っこしてたの…笑」





アオシ「羽をつけてずっと歩いて来たのか?笑」






蒼紫の腕には

まだ…麗子の手があるけれど

蒼紫は全く気にする様子はなく

顔を夢乃ちゃんに向けて笑っていて

余計に…麗子を不憫に感じた…






「ニーコのご飯が

もう直ぐ無くなるから買いに来たんだけど…」






段々と声が沈んでいく

夢乃ちゃんの声に

俺はいつまでも蒼紫に伸ばしている

麗子の腕を掴んで下ろさせた





( ・・・仕方がないだろ… )






言葉には出来なかったが

麗子の手を強く掴んで

「いくぞ」と手を引いて歩き出し

夢乃ちゃんに「またね」と笑って挨拶をした





レイコ「・・・なんで…」





二人から離れると

麗子は声を振るわせながらそう呟き

長い長い片想いだからなと

小さくタメ息を漏らすと…





レイコ「・・・おじさんって…変だよ…」





ミツタロウ「・・・・・・」






麗子もさっきの呼び名に

何かを感じていた様で

俺の後ろで「あの二人…変」と…

俺の頭にある言葉と同じ事を口にしていた…









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