行ってらっしゃい
〈アオシ視点〉
「何時に帰って来る?」
夢乃は毎朝必ず聞いてくる…
朝飯を作る前に会えなければ
俺がお参りに行く身支度をしている
部屋へと走って来てきてまで…
( 朝飯の片付けを放り投げて… )
アオシ「・・・4時頃だろ…」
「4時!?…最後はどの家を周るの?」
いつもなら
5時や4時と答えると
グッと眉を寄せて
「もうちょっと早くならないの?」と
唇を尖らせ生意気な顔をするが
今日は「4時!?」と何故か
機嫌良さげな表情をしている
アオシ「・・・何企んでんだ?」
「別に…商店街通りなら
お遣いでも頼もうかなって?笑」
アオシ「またコーヒーや菓子か?」
「うん…まぁ?笑」
夢乃はよく商店街で
菓子だのコーヒーだの雑誌だのを
買い込んで来ていて
〝節約〟とは程遠い金遣いをしている…
( コイツは… )
春からの生活もあると思い
衣食住付きのこの
アオシ「・・・50しかやれねぇぞ?」
「ん??」
俺の実家をだいぶ勘違いしてたみてぇだし
夢乃はこの寺に連れて来られ
正直50じゃ少ないと思ってるだろう…
( 朝は早いし食事はいいもんじゃねぇし… )
寺の掃除はもちろん…
買い出しはいつも歩いて行っていて
修行僧みてぇな生活だしな…
「50…あぁ!約束の!
ビタ一文負けないから宜しくね?笑」
アオシ「・・・無駄遣いばっかりしてねぇで
今ある分には手をつけねぇ様にしろ…」
「無駄遣いは…そんなにしてないもん…」
アオシ「・・・はぁ…行ってくる」
少し叱れば直ぐに
唇を尖らせ不貞腐れる夢乃に
いくつだと呆れながら
出て行こうとすれば
「待って」と袖を引っ張ってきた
「最後のお参りは?」
アオシ「・・・呉服屋だ…」
何で今日はお参り場所を気にするんだと
不思議に思いながら答えると
夢乃はニッと笑って
「行ってらっしゃい」と袖を握ったまま言い…
アオシ「・・・いつまでついてくる気だ…」
夢乃は俺の袖を握ったまま
駐車場までついて来ていた
「朝ごはん食べ過ぎたから運動よ」
アオシ「・・・・・・」
大した距離もないこの歩きが
何の運動になるんだと
隣りで機嫌よくニコニコ笑っている
夢乃に「袖を離せ」と言っていると
俺たちが歩いて来た道から
鳴き声が聞こえ出し
顔を向けると鶏が顔を出していた
「あっ!探しに来たのね」
夢乃は鶏を見るとパッと袖を離し
「ニーコ」と鶏の方へと走って行き
さっきまで夢乃が掴んでいた
自分の袖元に目を向け
「はぁ…」と息を吐いてから
車のドアを開けると
「おじさん!」と呼ばれ
まだなんかあんのかと思い
眉を寄せて振り返ると
鶏を抱き上げた夢乃が
「行ってらっしゃい」と手を振っていた
アオシ「・・・さっきも聞いた…」
そう呟いてから車に乗り込み
エンジンをかけながら
バックミラーでまだ立っている
夢乃と鶏を見て「ふっ…」と小さく笑った
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