頑張ったら…

〈ユメノ視点〉










「おはようニーコ」






ニーコの所へと行くと

側に卵が落ちてあり

久しぶりだなと思いながら

「偉いわよ」と声をかけて拾い上げた






( ・・・目玉焼きにしようかな… )






卵一個だけじゃ

家族4人分の目玉焼きは無理だし

小さい卵焼きだと

おじさんはお父さんやお母さんにと

箸を伸ばさない気がするし…




お味噌汁に入れるか

目玉焼きか…卵かけご飯…




卵一個だとバリエーションも少なく

おじさんの「美味しい」なんて言葉も

出てきた事はない…






「・・・双子とかは産まないの?」





ニーコの顔を覗き込みながら

そう問いかけていると

「贅沢な頼みだな」と後ろから声がした






アオシ「毎日産んでくれるだけ有難いだろうが」






顔を向けると

縁側から出て来たおじさんが

私の隣に腰を降ろして

「なぁ?」と笑いながらニーコの頭を撫でだした





( ・・・・・・ )





ニーコはおじさんに撫でられると

目を少し細めて気持ちが良さそうにしていて

おじさんのこんな優しい笑顔も初めて見た…






アオシ「飯もちゃんと食ってるみてぇだな」





「えっ??」





アオシ「お前が居なくなって

   しばらく食べなくなってたんだよ」





「・・・・・・」






おじさんの言葉を聞いて

長く一人にさせて可哀想だったなと

ニーコに顔を向けると…




おじさんが撫でる手を止めて

ニーコの頭から手を離そうとすると

ニーコは数歩近づいてまた自分の頭を

おじさんの手に寄せている…





( ・・・・・・ )





そんなニーコに「なんだよ」と

笑ってまた頭を撫で出す

おじさんに少しムッとした…





( ・・・ニーコばっかり… )






座ったまま一歩おじさんに近づいて

腕が当たる距離になっても

おじさんはニーコの事しか見ていないから

おじさん側の足に体重を寄せて

少し寄りかかってみた






アオシ「大人しくしてろよ」





( ・・・・・・ )






私の事なんて全く気にとめないで

ニーコにしか話かけないから

頭をおじさんの腕に押し当てて

甘える様にひっつくと

「そっくりだな」と笑い出し

やっと顔をむけてくれた






「・・・そっくり?」





アオシ「家で大人しくしてろ」





「・・・・・・」






さっきの言葉は

ニーコと私に言っていたんだと分かり

また頭をおじさんの腕に擦り寄せて

「何時に帰ってくる?」と問いかけた






アオシ「5時位じゃねぇか」





「・・・頑張ったら?」





アオシ「・・・・・・」






おじさんが黙ったから

顔を上げておじさんの顔を

下から見上げると

目を細めて何か言いたげな顔をしている






アオシ「・・・頑張ったら?」





「そっ!頑張ったら何時?」





アオシ「・・・頑張ったらって…何をだ?」






「早く帰る努力をよ!

 無駄な雑談をパッパッと切り上げたり

 歩く速度をたげたり…

 頑張ったら何時?笑」






おじさんは「はぁ…」とタメ息を吐いて

ニーコに顔を戻したから

「せっかくぜんざいを作るのに」と呟くと

「作れんのか」と笑い混じりに言われ

私の作った手料理に対して

一度も「美味しい」と言ってくれた事のない

おじさんに唇を尖らせた






「お母さんと作るもん…」





アオシ「言う事聞いて作れよ」





「・・・美味しかったら?」





アオシ「・・・・・・」






何も答えないおじさんに

「もういいわよ」と言って

卵を持って台所に行こうとすると

「4時半には帰る」と聞こえ

パッと振り返ると

「さっさと朝飯作れ」と言って立ち上がると

お寺の方に歩いて行った
















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