〈ユメノ視点〉









( ・・・嫌だな… )






お母さんからお遣いを頼まれ

寒い風が吹く中

コートのポケットに手を入れたまま歩き

「はぁ…」とタメ息を吐きながら

行きたくない商店街へと向かった…





いつもは長く感じる道のりも

今日は、もう着いたのと思う位に

さびれた商店街の看板が視界に入るのが早かった





( さっと買って帰ろう… )






せめての救いは

買い出し内容が由季ちゃんのいる

Kショップだけで済むという点だなと思い

早足でお店の扉を開けると

レジにいた由季ちゃんが

私を見てギョッとした様な表情を浮かべると

直ぐに口前に人差し指を立てて

もう片方の手を忙しなくパタパタと振って

コッチに来いと言っているのが分かった






( ・・・なにまた女狐でもいるの? )






心ではそう強気な言葉が出ても

可哀想な自分になりたくない私は

足を立てずに由季ちゃんの元へと行き

レジ奥にある暖簾のれんのかかった

在庫スペースの中へと身を隠し

耳をすませてみると…






女「えっ!?

  じゃあ年明けて直ぐに?」






女「らしいわよ!

  なんでもあのお嫁さんが帰省するとかで

  お寺から離れるみたいだから」






女「帰省?忙しい時に…」







( ・・・追い出されたも同然の帰省よ… )







まるで私が帰りたがったとでも

言う内容に「フンッ…」と小さく鼻を鳴らし

年明けて直ぐに何があるのかも分かった…





忙しい時に…

なんて言っても

その〝忙しい時〟にお見合いをする

おじさん達には何にも思わないわけ…






気分は最悪なのに

悲しさと寂しさを感じているのか

私の右手は自分の髪を

くるくると指に巻き付けていて

自分でも気付かないうちに

一人勝手に指遊びをしていた…





( ・・・帰って来れないかも… )






トランクには必要最低限の荷造りしか

していなかったけれど

もっと…多めに持ち帰り…

部屋に残っている荷物は

おじさんが送りやすい様に

段ボールに入れておこうかな…






女「はぁ…坊守ぼうもりもあぁだしね…」






壁に背中を預けて

早く帰ってよねと思っていると

噂好きなオバさん達の口から

お母さんの呼び名が出てきて

くるくると動いていた手が止まった…






女「毎回毎回…

  坊守の仕事がありますからの一点張りで」





女「明日の餅つきも…

  年末はどこも忙しいに決まってるわよ」







( ・・・餅つき?? )






何の話と思い暖簾のれんからそっと

顔を覗かせると奥の通路にオバさん数人が立っていて

以前、足袋が汚れていると言っていた

オバさんがいるのを見つけ

「またあのオバさん…」と小さく呟いた





前に買い出しに来た時に

商店街の通りで「若住職が」と聞こえ

理髪店のポールの影に隠れて

聞き耳を立てていると

おじさんやお父さんの足袋が汚れていて

坊守であるお母さんがちゃんと

洗ってやっていないと話していて…





帰ってから干してある足袋を見てみると

真っ白とはいかなくても

薄らと足袋の淵にくすんだ後がついているだけで

特別汚れている様には見えなかった






( まぁ…洗濯場にあるのは汚かったけど… )






何となく…

テレビなんかでよくある

暇な主婦の色バタ会議のネタの1つなんだと思い

日中は…やる事もなくて暇だったから

洗剤を買いに行って私が洗う事にした…





お母さんは…

初めて会った時は

私が想像していたイメージとはだいぶ違い

商店街にいそうなオバさんだなと思ったけれど

この店の奥でペチャクチャと話し込んでいる

オバさん達に比べたら



どことなく…

落ち着いていて品がある様に見える






( 小言ばっかりだけど… )






そして多分…

あまり人付き合いが得意じゃない気がする…




私もあまり良い方ではないけれど

この前の事といい

商店街と離れていて

あまり顔を出せていないから

色バタ会議のやり玉に

上がりやすいんだろうなと思った







女「明後日はまた腰が痛くなるわね」






女「はぁ…やだやだ…

  私も主婦の仕事が忙しくって…って

  言って休みたいわよ」






「・・・・(クソババ…)」






オバさん達が帰ったのは

それから30分経った後で

出て行く背中に「暇人じゃない…」と

憎まれ口を送り

暖簾から出て由季ちゃんに

「明日何かあるの?」と問いかけた









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