嫁と姑…

〈ユメノ視点〉









憎たらしいと思いながらも

いつもの様に足袋を手洗いしていると

ニーコが寂しそうに

遠くから見ているのに気付き

「もうちょっとで終わるからね」と声をかけ

明日から大丈夫かなとニーコの心配をした




明日から実家に帰る事になっていて

10日間近く此処を離れるけれど

私に懐いているニーコが寂しがって

泣いちゃうんじゃないと心配になった…





( ・・・ニーコだけだろうし… )



 



私が留守にしても

この家の人達はきっと変わらない毎日を送って

全く気に留めない気がした…




足袋を干し終えて部屋の中に入ると

お母さんが居間のテーブルで

墨を研いでいて周りには

何か書かれた紙が並べられていた






「・・・なんですか?」





母「あぁ…今日も足袋を洗ったの?」





「・・・明日は朝から帰らせて頂きますから」






そう言って

お母さんに近づいて腰を降ろすと

「そうだったわね」と言って

また墨を研ぎだし

新年の挨拶周りに配る暦と法事の年忌を

一軒、一軒…筆で書いているらしい…





( ・・・印刷じゃ駄目なの? )





手間も時間もかかる気がして

ポチッとボタンを押して印刷の方が

楽なのにと思いながら

お母さんの隣りで墨を研ぎ出した





( ・・・せめて筆ペンとか… )





お母さんの字は見るからに

〝達筆〟という感じで

貫禄の様な物があるけど…




この数日…

行事用の袈裟を日干ししたりと

お母さんは年始の準備で

忙しそうにしているから

パッパッと出来る印刷や筆ペンを使ったら

もっと作業も早いのに…






「・・・毎年…書いているんですか?」





母「・・・そうね…

   坊守になった年からずっと書いてるわね」






「お母さんは…

 いくつの時に嫁いできたんですか?」






こんな召使いみたいな

雑務ばっかりの坊守ぼうもり

何でなったんだろうとずっと不思議だった






母「・・・・・・」






お母さんは筆を止めて

何も答えないから「お母さん?」と

顔を向けるとお母さんは

私の顔をジッと見ていて…






( ・・・なに…何か不味かった? )






母「・・・ここは私の実家なのよ」






「・・・えっ…」






てっきり、おじさんみたいに

このお寺の息子だったお父さんに

嫁いできたんだと思っていたから

「実家?」と驚いた







「じゃあ…たまたま好きになった人が

  お坊さんのお父さんだったんですか?」






母「・・・・・・」







ちょっとロマンチックだなと思い

笑ってお母さんに問いかけると

お母さんは私の言葉を聞いて

スッと手元の紙に顔を戻して

また筆を動かしだした






母「・・・住職と私は…縁談よ」






「縁談……お見合いですか?」






母「・・・・そうね…」






( ・・・確かに… )






お母さんとお父さんは

普段から社長と事務員の様な

距離のある会話しかしていないし

この二人に〝恋愛〟なんて言葉は…

ちょっと…違う気がする…





お母さんはこのお寺の一人娘で

跡取りとなるお父さんとお見合いをして

結婚をしたらしい…







「・・・お父さんは…婿養子だったんですね」






母「お寺ではよくある話よ…」







よくある話…

その言葉におじさんと麗子さんの

姿が思い浮かんで何も言わずに

墨を持つ手を動かしだした…






ミツタロウ「水戸のおじさんも…

    仕事柄あれだし…

    お寺と…住職と身内になった方が

    色々といいみたいで

    中々引かないらしくてね…」






( ・・・きっと…お寺側としても… )






仏壇屋の…その水戸さんとか言う家は

檀家さんの中でもそこそこ

発言力のあるお得意さんらしいし…




そこの娘をお嫁さんにした方が

お寺としてもいいんだろうなと思った…







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