クソ坊主…

〈ユメノ視点〉








コッコッコ…





( ・・・・・・ )





朝起きていつもの様にニーコの所へ行くと

いつもの様に卵が1つ置かれていた…






「・・・今日は休んで良かったのよ?」





ニーコにそう呟くと

いつもの様に頭を撫でて欲しそうに

私の側へと近づいて来たから

「偉いわよ」と言って撫でてやった





卵を持って台所へと行き

お味噌汁を作っていると

お母さんと話ながらおじさんが入って来たけれど

顔をお鍋に向けたまま

何も言わずにお味噌を溶かしていると

「今日は住職にやれ」と後ろから言われ

何も答えずに台に乗っている卵を手に取り

お味噌汁の中へと落とした





( ・・・クソ坊主… )





沸々と沸騰したお鍋の中を見ながら

昨日からずっと呪文の様に

心の中で唱えているこの言葉をまた唱えた…





婚約者のいる息子に

お見合いをさせようとしてる

お父さんも…





嘘とはいえ、婚約者として

私をこんな山奥のお寺に連れて来ておいて

影でお見合いをしょうとしている

おじさんも…






( ・・・二人とも…クソ坊主… )






何が僧侶よ…

何が仏に使える身よ…

道理に反してるじゃないのよ!





お味噌汁をお椀に装い

お盆に乗せて居間のテーブルへと運び

それぞれの席に並べ

「ふんっ」と鼻を鳴らしてから席についた





( いっつも卵もらえると思わないでよね )





お父さん達も席につき食事を始めるけれど

誰も一言も話さずシンッとした静けさの中

目の前にある自分のお椀だけを見ながら

食事を続けた






母「食事中は…静かに、会話も控えてね」






初めの頃は何で?と中々慣れなかったけれど

こんな風に話も、目も合わせたくない時は

便利な作法よねと思い

お椀を上げてお味噌汁の汁を音を立てずに

啜ると隣りの席のお母さんが

お味噌汁のお椀を手に持って

ピタッと一瞬動きを止めた





きっとお味噌汁の中にある

卵を見つけて驚いているんだろうけど

今日はおじさんにもお父さんにも

ニーコが産んだ卵を食べてほしくなかった…





食事を終えて食器を手に持ち

台所へと下がり洗い物をしていると

おじさんが隣りに来て

「何イライラしてんだ」と聞いてきた






「・・・・別に」






アオシ「・・・クリスマスは来年もあるだろうが」






おじさんは私がクリスマスに

ケーキを食べたりお祝い出来ない事に

機嫌を悪くしていると勘違いをしている様で

隣りで「はぁ…」とタメ息を吐いて

「行ってくる」と

ガラス扉から出て行こうとしたから

嫌味の様に「行ってらっしゃいませ」と言った






アオシ「・・・可愛くねぇガキだな」





「・・・可愛いもん…」





アオシ「はっ??」





「誰かさんよりかは可愛いもんッ!」






洗い終わった布巾を干して

顔をプイッと背けてそう言い

居間の方へと歩いて行きながら

「女狐と結婚すればいいじゃない」と

小さく呟いた…





自分の部屋の襖を勢いよく開けて

「何よ」と言ってパシッと閉めると

数日後に帰る荷造りを始めた





( もし…話がまとまったら… )





「・・・・帰って…来なくていいのかな… 」





お見合いは私がいない間にする予定の様だし

麗子さんとの話がまとまれば

私がここにいる意味は無いし

むしろ邪魔になるんじゃと思った…






「・・・2ヶ月だから20万?」






部屋の契約は出来ても

家具や家電品がないままだと

数ヶ月前の様に嫌な悩みが頭を覆ったけれど

それ以上に此処にいたくなかった…





町の皆んなから

邪魔者扱いをされて

「麗子ちゃんの方が」なんて言葉を

聞き続けるのも嫌だし…

なによりも…惨めだった…





おじさんが嘘でもハッキリと

婚約者は私だと

言ってくれればいいのに…





婚約者である筈のおじさんが

お付き合いだからと…

断れないからと言って

お見合いをしていたら…






「・・・立場…ないじゃない…」






どんな顔で買い出しをしに

商店街を歩いたらいいのか分からない…






「・・・・嘘つき坊主… 」






( お見合いしたく無いって言ってたのに… )

























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