女狐

〈ユメノ視点〉










今日はクリスマスで…

この田舎の商店街も

イルミネーション…とまでは言わなくても

ピカピカと光るライトが飾られていて

陽気なBGMが流れているのに

お寺にクリスマスは無縁らしい…






お寺で納めの地蔵とかなんとかの

集まりがあるらしく

珍しくお参りに行かずに

お寺にいるおじさんに嬉しく思っていると





おじさんの婚約者だと分かった今も

こう言う集まりには

顔を出してほしくないらしく

お父さんから買い出しに行くように言われ…






唇を尖らせて買い物に行こうとすると

「夢乃」とおじさんから呼び止められた






アオシ「うちにケーキや七面鳥は必要ねぇからな」





「じゃあ…モナカでも食べるの?」





アオシ「・・・言われた物だけ買って来い」





「・・・・・・」




 


クリスマス・イヴなのに

ケーキもご馳走様も

シャンパングラスで乾杯もない…






( ・・・こんなのクリスマスじゃない… )






お地蔵さんよりも

トナカイに乗ったサンタクロースの方が

数百倍尊いと思いながら

5キロ近く離れている商店街へと歩いた






数日前と変わらない

クリスマスムード全開の商店街に

胸の中で「なによ…」と舌打ちをし

みりんを求めて由季ちゃんのお店へと入ると

由季ちゃんの姿は無く

おばさんがレジに立っていた






「・・・こんにちは…」






由季ちゃんのお母さんかなと思い

挨拶をして調味料の棚へと歩いて行くと

長い黒髪の女の人が立っていて

私に顔を向けると少し目を見開いた後に

「こんにちは」と挨拶をしてきた





( ・・・初めて見るけど… )





女の人に近づくと

お線香独特の香りが鼻をさし

何となく彼女が誰なのかが分かった…






「・・・初めまして…」





レイコ「・・・・・・」






多分…由季ちゃんの言っていた

おじさんの…幼なじみの麗子さんだ…




麗子さんは私の顔をジッと見たまま

頬を上げて愛想笑いを浮かべる事もなく

ただ…ジッと見ている…






ユキ「麗子さんって

  今年29歳なんですけど…

  誰とも結婚してなくて

  蒼紫さんが帰って来るのを待ってるって

  町中の人が言ってました」






( ・・・つまり… )





この麗子さんは…

おじさんの事が好きで…

ずっと、帰って来るのを待っていたんだ…






レイコ「・・・・蒼君…」





「・・・へっ?」





レイコ「蒼君の婚約者の子だよね?」






口の端を上げて笑っている様に見えるけど

私を見ている目は全然…笑ってなく

私をどんな風に見ているのかも伝わった






「・・・夢乃…です…」






レイコ「ふふ…蒼君から聞いていた通り

   若くて可愛いね?笑」






「・・・蒼紫さんから?」






おじさんがそんな事を言うわけが無いし

さっきから「蒼君、蒼君」と親しげに

呼ぶ言い方が…嫌だと感じていた






( ・・・29歳で蒼君って… )






レイコ「・・・夢乃ちゃんは…

    納めの地蔵に出なくていいの?」






「・・・お寺はお母さんが…」






レイコ「普通は次期坊守も呼ばれるんだけどね?」






「・・・・・・」






女「あらッ!麗子ちゃん!」






後ろから誰だか知らない

おばさんの声が聞こえてきて

数人の足音が近づいて来るのが分かった






レイコ「こんにちは」






女「相変わらずの美人さんね

  しっかりしてるし…

  本当に若住職はもったい無い事したわねぇ」





女「ホントよぉ…

  麗子ちゃんなら直ぐにでも

  立派な坊守になれたのに」






女「おばちゃん達は麗子ちゃんの味方だから!」







「ねぇ…」と私の直ぐ後ろで

相槌を打ち合うおばさん達に

「こんにちは」と振り返って挨拶をすると

「あっ…」と口を開けたまま固まり

目だけをキョロキョロとさせて

気まずそうにしている…






「他にもお遣いがありますので失礼します」


 




そう言って棚のみりんを1本手に取ると

レジへと持って行き

早足でお店から出て行った






「・・・なによ…女狐…」





おじさんから私の話を聞いたなんて嘘だし

あのおばさん達が私がいるのに

気づかずに…言いたい放題言っているのを

止める事もなく笑って聞いていたし…





「・・・ホンット…女狐…」


 



あの性格の悪そうな女狐が

おじさんの許嫁もどきだったと思うと

歩く足もドカドカと音を立てたくなる…





「30手前のお局って皆んなああなの?」






指導係の美南さんを思い出し

「もうッ!」と声を上げていると

「夢乃…ちゃん?」と後ろから声がして

気分が悪くムッとした顔のまま振り返ると

おじさんのお友達が気まずそうに

頭に手を当てて立っていた






「・・・満太朗さん…」





ミツタロウ「・・・なんかあった?」






自分の酷い顔に手を当てて

「すみません」と失礼な態度で

振り向いた事を謝ると

満太朗さんは「いや、いいよ」と

笑ってくれて買い出しかいと尋ねてきた






「買い出しは…もう終わりました…」





ミツタロウ「・・・・・・」






さっきのKショップでのイライラが

中々治らず…みりんの入った袋を

ぶらぶらと揺らすと

「気にしない方がいいよ」と言われ

「え?」と顔を上げると






ミツタロウ「町の連中っていうか…

    檀家数人が騒いでるだけだから」






「・・・・・・」






麗子さんとおじさんの事だろうと思い

また顔を俯むけて話を聞いていると

「夢乃ちゃんいるのにお見合いなんて」

と言う言葉に意味が分からず

ゆっくりと顔を上げると

満太朗さんは「大丈夫だよ!」と

私に笑顔を向けている…






ミツタロウ「水戸さんも…

   中々強情だけど…

   じきに諦めると思うからさ」






「・・・・水戸…麗子さん?」






ミツタロウ「・・・・え?」






「・・・お見合いするの?」





   

満太朗さんはシマッタと言う顔をしていて

口元に手をパッと当てて「あの…」と

慌てているけれど…




その態度が余計に

そうなんだと物語っていて

何故、大きな集まりがある度に

買い出しなどに出されるのかが分かった…







( ・・・年末の帰省も… )







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