早起きは…

〈ユメノ視点〉









ピピピピ…





手を伸ばしてパシッと

煩い目覚まし時計を止めて

毛布からモソッと顔を出し

何の可愛さもない

いたってシンプルな黒く四角い

目覚まし時計を見て

「もうちょっと可愛いのが良かった…」と

呟きながらも

おじさんが初めて私にプレゼントをしてくれた

目覚まし時計に「ふふ…」と笑いながら

洋服を手に取り温かい布団の中で着替えを

しようかと思ったけれど…






「・・・まだ…寝てるかな?」






時計の針は4時を指していて

早起きをした姿をおじさんに見てほしくて…

褒められたくてパジャマ姿のまま

おじさんを起こしに部屋に行くと

襖の向こうには布団がひかれたままの

誰もいない部屋しかなく…





( ・・・もう起きたのかな… )






布団も畳まずに出て行ったのかと思い

起きてそのままだと分かる位に

少し乱れた布団に近づいて

手を当てると中はまだ温かく

さっきまでおじさんが寝ていたんだと分かった





「・・・寒っ…」





パジャマ姿のままで

ブルッとする寒さを感じた私は

思わずおじさんの布団の中に入り

自分の布団とは違った香りのする

おじさんの布団に居心地の良さを感じ…



枕に頭を乗せて

毛布にギュッとくるまっていると…







父「蒼紫、今日のお参りだが……」






襖を開けたままだった事を忘れ

突然聞こえてきた

お父さんの声に驚いて

ガバッと上体を起こし

「おはようございます…」と挨拶をすると

お父さんは口を開けたまま固まっている…





人の布団にくるまって

匂いを嗅いでいたなんて

変態の様な姿を見られ

気まずさを感じながら

「蒼紫さんなら…いませんが…」と

ボソボソと伝えると

お父さんはパッと私に背中を向けて

「襖はしっかり閉めなさい」と言うと

来た道を帰っていったようだ…






「・・・きゅっ…急に来ないでよね…」






おじさんに言うかなと思い

顔を両手で覆い「どうしよう…」と

呟いてみたものの…






( ・・・どうせ怒られるなら… )






もう一度布団に体を預けて

毛布にくるまっていると

ガラッと襖が開く音が聞こえ

またお父さんが来たのかと思い

「蒼紫さんならいませんよ」と

言いかけた口はピタリと止まった…






「・・・・あっ… 」






アオシ「・・・・・・」






布団の横に立って

私を見下ろしているおじさんの眉間のシワを見て

「早起きなのね…」と

唾をゴクリと飲んで伝えると

目を細めながら「何してんだ」と言うおじさんに

プレゼントされた目覚まし時計で

ちゃんと早起きした姿を

褒めてもらおうと思って来たなんて…

言えなかった…




早起きは三文の徳…

なんて言葉があるけど…







アオシ「さっさと起きろ」   






「・・・・はい… 」







この日の早起きの〝徳〟は

おじさんの布団にくるまった

数分間…なんかじゃなく…





私がおじさんの部屋で

一夜を過ごしたと勘違いをした

お父さんの変化だった…





勘違いをしたお父さんは

この日から少しだけ私に甘くなり…





前日に「生理」だと伝えていた私は

お父さんがそんな勘違いをしているとは

1ミリも思っていなかった…













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