〈ユメノ視点〉








お風呂から上がり

久しぶりに長時間外の紫外線を浴びたから|

ホワイトニングのパックを顔に貼り付けて

鼻歌を歌いながら少し伸びた爪を

ヤスリで削っていると「入るぞ」と言う

声と同時に襖がガラッと開けられた






アオシ「・・・・何やってんだ…」






パック中はあまり話たくなく…

スマホの画面に後5分待ってと打ち込んで

おじさんに画面を差し出すと

おじさんは眉をピクリとさせて

私の顔のパックを剥ぎ取ると

「お前何やったんだ?」と聞いてきた





「もうッ!まだ5分も貼ってないのに」






アオシ「毎日、毎日

   顔をぐりぐりと機械当てたり

   塗りたくったり忙しい奴だな…」





「おじさんだって、毎晩ゴニョゴニョと

  お経読んでるじゃない…あれと一緒よ…」






アオシ「俺の読経とコレが一緒?」






おじさんは目を大きくさせて

剥いだパックを見下ろしながらそう言うと

一緒にするなとでも言いたげな顔を

コッチに向けてきた…






「・・・日課って言う意味じゃ一緒よ」





アオシ「・・・相変わらず生意気な口だな…」






パック後のクリームを手に取り

念入りに塗りこんでいると

鏡に目を細めたおじさんが映っていて

気分が上がる筈のお手入れ時間なのにと

内心タメ息を吐いて

振り返って「何のこと?」と

さっきの質問の意味が分からず問いかけた






アオシ「お前…あの後戻って来て

   オヤジ達から何も言われなかったのか?」






おじさんの言葉に「あぁ…」と言って

顔をテーブルに戻しアイクリームを

手に取って目尻に塗りながら

「別に…普通だったわよ」と目を合わせず答えた…






アオシ「普通?」





「・・・だから…普通よ…」





( ・・・言えるわけがない… )






おじさんと別れたあの後…

色々とあった…本当に色々と…





Kショップで買い物をして

レジで会計をしていると

「お姉さんって…」とレジを打っていた

女の子が話かけてきた






ユキ「やっぱり!なんか雰囲気違うし

   絶対都会の人だと思った!!」





「都会ってわけじゃないけどね」






20歳の由季ちゃんは

私に違った意味で興味がある様で…

まつ毛や…メイクの事を質問してきた






ユキ「まつ毛美容液…効くんですか?」





「物にもよるけど

 高いのはちゃんと効くし

 マツエクほどの可愛さやボリュームは出ないけど

 年取るとまつ毛も衰えて

 短くなったり薄くなるらしいから

 早めに手入れしてた方がいいわよ!」





ユキ「へぇ…勉強になります!」





まだまだ幼さの残る由季ちゃんに

可愛いなと思いながら

話をしていると住んでいる場所の話題になり

おじさんの婚約者だと話すと

由季ちゃんは一瞬固まった後に

「えっ!?」と声を上げて

目をパチパチとさせていた…





( ・・・そう言えば… )





さっきのおばちゃん達が

仏壇屋の娘との縁談があるとか

言っていた事を思い出し

由季ちゃんに尋ねてみると

由季ちゃんは更に驚いた顔をして

「実は…」と…色々と話してくれた





( ・・・許嫁って何よ!? )





おじさんには昔から

麗子さんとか言う町の皆んなが公認の

相手がいる様で…



今回おじさんが帰って来たのも

麗子さんと結婚をして後を継ぐ為だと

噂していたらしい…





「何よ相手いるんじゃない…」





買い込んだ重いビニール袋を

ブンブンと振りながら

おじさんに対し唇を尖らせ

怒って帰っていると

お寺の下にある坂道にお母さんが立っていて

「夢乃さん!」と私を見つけて駆け寄って来た






母「勝手にいなくなって…

  住職がお怒りだから早く中に…」




 


由季ちゃんから何も聞いていなかったら

頭を下げて肩身狭く門を潜っただろうけど…







( ・・・どうりで隠したいわけよね… )






ユキ「ほら!お寺と…お仏壇って

  何かと仕事柄も近いし

  接する事も多いから…いいだろうって…」

 






お母さんに連れられて

お父さんのいる部屋へと連れて行かれると

腕組みをしたお父さんの前に正座をさせられ

気の滅入る雰囲気に「はぁ…」と息を零した







父「家の掃除もせずに何処に出掛けていたんだ」






「・・・買い物がありまして…」





父「買い物は母さんに頼めばいいんだ

  夢乃さん…君はこのお寺の事も

  作法も何一つ分かっていない…」






お父さんは呆れた様な…

分かりやすい位に嫌味なタメ息を吐いて

「まったく…急に連れて帰って来て」と

誰に向けての言葉で…

誰に向けての嫌味かも…

よく伝わった…






「・・・・・・」





帰り道の途中から

下腹部に生理独特の痛みが出ていて

妙にイライラとしていて…






「お父さん…私まだ妊娠してないんです」





父「・・・はっ?」






買い物袋をお父さんの前に出し

中から買って来た生理用品を取り出して





「急にお腹が痛くなって…

 生理用品もなくて

 仕方が無く買い物に行ったんです…

 まだ…妊娠していなかったようで…」





父「・・・まだ?」





「えぇ…いずれは

 蒼紫さんに似た子が欲しいですし…笑」





父「・・・・・・」





お父さんもお母さんも…

それ以上は何も言わなくなり

私も荷物を持って自分の部屋へと行き

鎮痛剤を飲んでから夕食の準備の時間まで

ゆっくりとお昼寝をさせてもらった






( ・・・何だかんだ言ってもねぇ… )






認めたくないと嫌味を言っても

その嫁が産んだ可愛い孫を抱く事を思えば…





マリコ「もう、たっちゃんの両親は

   顔を合わせる度に

  孫の顔が見たいって言うんだよね…

  まだ籍も入れてないのに?笑」





( どこの舅、姑も変わらないみたいで良かった )


 




アオシ「・・・おい!」






「だから!買いたい物があって

  出かけただけだってちゃんと説明したら

  あっさり許してくれたの!」






アオシ「俺はお前以上にオヤジ達をよく知ってる

   そんなあっさりと許したりはしねぇ…」






おじさんの言葉に「ふっ」と笑って

クルッと顔を向けると

眉間にシワを寄せた顔でコッチを見ていた






「おじさん以上に…〝お舅さん〟の事を

  分かってるのはアタシみたいよ?笑」






おじさんは少し驚いた顔をした後に

「はっ…」と言って笑いだし…

久しぶりに見る笑顔に嬉しくなった






「ねっ!自分で解決したんだし

  今回は偉いでしょ?」





立ち上がって

おじさんの腕を掴んでそう言うと

左手に何かを持っている事に気付き

「何それ?」と問いかけると

おじさんは「やるよ」と言って

茶色い紙袋を差し出してきた





「何……あっ!?」





中を見てパッと顔を上げると

「ちゃんと起きろよ」と言って

廊下を歩いて行くおじさんの背中に

口の端を上げてから襖を閉めた








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