〈アオシ視点〉










クガ「蒼紫君…結婚するのかい?」







昼前に商店街に現れた

夢乃の噂はもう檀家達の耳にも届いた様で

15時過ぎのお参り先で夢乃の事を聞かれた






クガ「いや…てっきり蒼紫君は

   水戸さん家の…麗子ちゃんをもらうのかと

   ばっかり思ってたからね…」






アオシ「彼女ならウチよりも

   もっといい嫁ぎ先が見つかりますよ」






クガ「仏壇屋と寺なら…合いそうだがね…」







この町の誰もが

俺の嫁は水戸仏具店の娘がいいと

口を揃えて言う…




オヤジやお袋もきっと

それを願っていた…






( ・・・・・・ )






お参りを終えて寺に帰る前に

ある店の戸をくぐり

目当ての物を歩きながら探していると

「若住職じゃねぇか」と亭主が声をかけてきた





頭を下げて挨拶をしていると

出てくる話題はやはり

夢乃の事と…麗子の名前だった…





麗子は俺の二つ下の仏壇屋の長女で

ガキの頃は満太朗達と皆んなで

走り回っていて…幼馴染みってやつだが…





麗子にそんな想いを向けた事は一度だってねぇし

親や町の連中が勝手に盛り上がって

勝手に進めていた話だった






( ・・・だが… )






品物を購入して店の外に出ると

傾き始めた夕陽に目を向け

「はぁ…」とタメ息を吐いて

機嫌の悪い住職の待つ寺に足を向けた





オヤジ達は夢乃を認めていないからか

麗子との噂話が盛り上がり過ぎている

町の連中に言いづらいからなのか…




夢乃を寺の敷地から出したからず

今日も家に隠そうとしていた…






「アタシだって…

 買いたい物位あるわよ…

 置物でも人形でもなくて〝人間〟なんだから…」






夢乃の言葉を思い出し

「ふっ…」と小さく笑ってから

歩く足を早めた






今日の事で、俺に婚約者がいる事も知れ渡り

縁談話も止まるだろうと思いながら

家の中へと入って行くと

「お帰りなさい」とエプロン姿で

笑っている夢乃を見て少し驚いた…






「お母さん!蒼紫さん帰って来たので

  ご飯ついでも大丈夫ですか?」






母「えぇ… あと、つぐじゃなくてよそう…ね?」






お袋の小言はいつもの事だが

いたっていつも通りな雰囲気に

何でたと思いながら手を洗い

住職の部屋へと足を向け

夢乃が勝手に出歩いた事を謝りに行くと…






父「帰ったか…

  外出の件はもういい」





アオシ「・・・・・・」






朝のオヤジは…

今日は檀家が数人寺に来るからと

夢乃に家の掃除を命じて

一歩も出るなと言っていたし




勝手に出歩いて

俺の婚約者だと知れ渡った事に

機嫌を悪くしていると思っていたが…






( ・・・何も言わないのか… )






俺がいない間に何があったんだと

不思議に思いながら食卓に座り

いつも通りに4人でテーブルを囲んでいても

夢乃は不貞腐れた様子も無く

パクパクと食事をしていて

オヤジ達も特に…何も言わない…






( ・・・なんだ… )




















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