婚約者
〈ユメノ視点〉
カズコ「若住職の婚約者って事は…」
シズカ「この子が次の坊守になるの?」
アオシ「その予定です」
( ・・・・・・ )
当たり前だけど
誰かに「婚約者です」なんて
紹介をされたのは初めてで
ドラマや漫画の様な今のおじさんの言葉に
何となく擽ったい気持ちになり
口の端が緩んでいく…
ミツタロウ「あっ…蒼紫の婚約者なら
早く紹介しろよな?笑」
道案内をしてくれようとしていた
お米屋さんの…みっちゃんとか言うお兄さんは
照れた様に笑うと、おじさんに
「何処で見つけたんだ」と問いかけている
( やっぱり、おじさんの知り合いなんだ )
おじさんと同い年だったし
あまり人口も多くなさそうなこの町なら
同じ学校だったんじゃないかと思っていたから
カズコ「・・・弦蒸寺の…」
さっきまで「可愛らしい」と
笑っていたオバさん達は
おじさんの…お寺の嫁だと分かると
急に態度が変わり
私の事をジロジロと見て「この子が…」と
見定めをする様にチェックしていた
( ・・・なによ… )
米屋の嫁なら歓迎ムードだったのに
お寺の嫁ならダメだとでも言いたいわけと
内心ムッとしながら
ニッコリと微笑んで
「夢乃と申します」と挨拶をした
シズカ「夢乃…ちゃん…
年はいくつなの?若く見えるけど…」
年齢をそのまま伝えると
オバさん達は「蒼紫君はいくつだっけ?」と
おじさんの袈裟の腕の辺りを触りながら
問いかけていて…
( ・・ちょっと…さっきからベタベタと… )
オバさんと言えども…
婚約者の目の前でボディータッチをするなんてと思い
面白く無く感じた私はスッとおじさんの隣り立ち
おじさんの二の腕に両手を添えて
「7歳離れているんです」と笑って答えた
アオシ「・・・・・・」
斜め上にあるおじさんの顔が
少しピクリと動いた事には気づいていたけれど
知らないフリをして
添えていた手に力を入れ
〝触らないで〟と言わんばかりに
オバさん達が撫でていた部分を
シワを伸ばす様に自分の手で数回撫でた
カズコ「・・・・あら…」
ミツタロウ「・・・・・・」
少し…子供っぽい対応だけど…
おじさんは一応…私の婚約者なわけだし
普通だったら、自分以外の誰かに
親しく触られるなんて…ダメだと思う…
( アタシはヤダ!! )
アオシ「・・・買い物はどうした?」
おじさんの言葉に
自分の下着の感触を思い出しハッとして
おじさんの袈裟をクイクイと引っ張りながら
「Kショップに行きたいの」と言うと
おじさんは顔を上げて
「真っ直ぐ歩いてれば看板が見える」と言って
案内もしてくれなさそうな
素っ気ない言葉を返してきた…
米屋のお兄さんは案内してくれようとしたのに
婚約者であるおじさんが
案内をしてくれないなんてある!?
「ふふ…蒼紫さん…
お店まで案内してくれない?
お母様からの伝言もあるし…笑」
ヒロインの様な立場から
一気に脇役にキャスティング落ちをした気分になり
案内ぐらいしてよねと袖を離さないでいると
おじさんも私を見て口の端を上げて
笑っているけれど…
少しだけピクリと引き攣っている…
( ムシムシ… )
顔をパッとお米屋のお兄さんに向けて
「ご親切にどうもありがとうございました」と
頭を下げてからおじさんに
「さっ!行きましょう」と顔を向けると
おじさんも、お兄さんに「悪かったな」と
言った後にベタベタと触っていたオバさん2人にも
頭を下げてから「行くぞ」と歩きだした
おじさんは袈裟を掴んでいる
私の手を払いのけたりはしなかったから
そのまま、おじさんさんの腕辺りの袈裟を
軽く握ったまま並んで歩いていると
小声で「抜け出してきたな」と問いかけてきた
「・・・緊急事態だったのよ… 」
アオシ「コーヒーと菓子がか?」
私がコーヒーの為に抜け出して来たんだと
勘違いをしている事に気づいたけれど…
生理用品を買いに来たと
何となく言いたくなくて黙ったままでいた…
アオシ「はぁ…住職にまたどやされるぞ?」
「・・・・守ってくれないわけ…」
おじさんの両親なんだから
「優しくしてやってくれ」とか…
少しくらい…庇ってほしい…
「アタシだって…
買いたい物位あるわよ…
置物でも人形でもなくて〝人間〟なんだから…」
アオシ「・・・・・・」
おじさんは何も話さなくなり
コンビニ…によく似たKショップに着くと
「気をつけて帰れよ」と言って
スタスタと歩いて行き
振り返ったりもしない素っ気ない態度に
また「なによ…」と呟いてから
お店の中へと入り
詐欺かと思う様な価格の陳列棚に
驚きながら買い物をした…
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