女の子…

〈ミツタロウ視点〉










ミツタロウ「・・・・ん?」






売り場に米袋を積んでいると

店の前のガラス扉の前を

キョロキョロと顔を動かしながら

歩いている女の子を見つけて手を止めた






( 町の子じゃないな… )






小さな町だし

だいたいは顔馴染みだが

ガラス扉の向こうにいる女の子は

見た事もないし

何よりも…なんて言うか…





( ・・・・可愛い… )






メイクも…雰囲気も

この辺りの子とは違って

垢抜けた可愛さがあった






ミツタロウ「・・・・あっ…」






女の子は顔をコッチに向けてきて

俺に気付き口を小さく開けたから

きっと俺の様に「あっ…」と呟いたんだろう…






ミツタロウ「やば…」






彼女がガラス扉に近づいて来たから

店に入って来るんだと分かり

10キロの米袋を何往復もして運んでいた

自分の体が汗臭い事が急に恥ずかしくなって

首にかけてあるタオルでこめかみの

汗を拭きながら入って来た

可愛い女の子に「いらっしゃいませ」と声をかけた







「あのぉ…すみません

 この辺りにコンビニとかスーパーはありますか?」







ミツタロウ「コンビニって言うか…

    Kショップなら少し歩いた先に」







そう言うと女の子はスマホの画面を見て

「やっぱりここだけか」と小さく呟くと

眉を下げて困った様な顔をしているから

「案内しましょうか?」と控えめに聞いてみた






女の子はパッと顔を上げて

「いいんですか?」と笑顔をむけて来たから

自分の顔がダラシなく笑って

「はい」と答えている姿がガラスに反射していて…






いい年して鼻の下を伸ばしている

自分に少し呆れながらも

足は入り口に向かって歩いて行き

女の子の隣りに立って少し先の

Kショップへと連れて行き

歩きながら「引っ越しですか?」と

さりげなく彼女の事を質問してみた







「あっ、はい!

  来て2週間位なんですけど

  買い物は今日が初めてで…笑」






ミツタロウ「へぇ…何処から来たんですか?」







隣りに並んで歩いていると

線香の様な匂いに混じって

時折フワッと甘い香りがしてきたから

チラッと横目で彼女の頭に目を向け

シャンプーの香りかなと思い

また少し口の端が上がっていく…





( ・・・こんな子が何で此処に… )






他所に出ていた奴らが

向こうで相手を見つけ結婚をして

連れて帰って来るパターンは稀にあるが

彼女はまだ20そこそこに見えるし

指輪もはめて無いから

多分そのパターンじゃない…






ミツタロウ「・・・あの…えっと…

    何でコッチに…こんな田舎に?」






「あぁ…笑」






女の子は少し苦笑いを浮かべて

「ちょっと色々ありまして」と

答えづらそうにしているから

話をそらして「いくつですか?」と

質問を変えてみた






「24歳です…お兄さんは?」






ミツタロウ「若いなぁ…笑

    俺なんて31歳のオヤジだよ」






女の子は「31?」と

驚いた顔を向けて来たから

「もっと上に見えました?」と

笑って問いかけると

女の子は俺を下がジッと上目遣いで見上げて来て

「おじ…お兄さんって…」と言いかけた瞬間

「あら!?」と斜め前の

噂好きな酒屋の和子おばちゃんの声が響いた






カズコ「みっちゃん!何!?

   ついに後継ぎの準備?笑」






ミツタロウ「チガっ!?この子は」






和子おばちゃんは女の子の前に

小走りで近づいて来ると

顔を覗き込んで「めんこい子だね」と

ニヤニヤとした笑顔を俺に向けてきたから

「だから違うってば」と否定するけれど

「いい年して照れてるのかい?」と

上機嫌な声を上げて奥から歩いて来た

別のご近所さんを捕まえて

「みっちゃんのお嫁さんよ」と言い出した





「違う」と否定しながら

女の子に顔を向けると

目をパチパチと数回瞬きさせた後に

ニッコリと笑っていて

気を遣ってくれているのかなと思い

「ごめんね」と謝ると

彼女は「ふふ…」と笑って

「皆んないい人ですね」と言うから

「ん?」と首を傾けると






カズコ「何処で見つけて来たの?」






シズカ「ほんっと!

   みっちゃんには勿体無いわよ!

   家の息子のお嫁さんに貰いたかったわぁ…」







彼女は否定する事無く

ニコニコと笑っていて

何だか自分でもまんざらでは無い気がしてきて

本当にこんな子が自分のお嫁さんだったらなと

また顔の筋肉が緩んでいった






( ・・・無くは無いのかな… )






俺のお嫁さんだと勘違いされていても

女の子はニコニコと笑っているし

指輪もないなら…






ミツタロウ「・・・あのさ…君の名前は…」






アオシ「夢乃」






名前を聞こうと思ったら

後ろからよく知っている低い声が聞こえて来て

「へ?」と顔を向けると

坊さん衣装を来た蒼紫が立っていた





ミツタロウ「ゆめ…の?」





蒼紫の顔はコッチを向いているけれど

目線は俺の横にいる女の子にだけ

向けられている事に気付き

女の子の方を見ると

彼女はヤバイと言う顔をして

俺腕後ろに隠れる様に半歩下がったから

蒼紫の知り合いなのかと驚いていると

もう一度「夢乃」と蒼紫の低い声が聞こえ

草履の音と一緒に近づいて来たのが分かった






カズコ「あら!若住職じゃない!」






アオシ「まだ住職ではないですよ…」






シズカ「どうせ後を継ぐんだからいいじゃない!笑」






カズコ「いい男になって…

   仏壇屋の上の娘さんとの縁談があるってホント?」







和子おばちゃんが蒼紫の袈裟を撫でながら

「似合ってるわぁ」と静香おばちゃんと

笑っていると俺の後ろにいた彼女が

一歩前に出てきて「蒼紫さん!」と

コホンと咳をしながら呼んだ…






( ・・・蒼紫さんって事は… )






アオシ「・・・何で此処にいるんだ」






「・・・・買い物が…あって…」






シズカ「・・・みっちゃんのお嫁さんじゃ…」






俺は…

何故彼女から線香の香りがしたのかが

今になって分かった気がして

「蒼紫の…奥さん?」と問いかけると

彼女は俺をチラッと見た後に

何か言いたげな顔を蒼紫に向けている…






アオシ「・・・俺の…婚約者だ」






カズコ「えっ!?」






シズカ「じゃあ…弦蒸寺のお嫁さんなの?」







彼女は…

蒼紫の言葉を聞くと

一度顔を下げて数秒経ってから

ゆっくりと顔を上げたその顔は

照れた様な表情をしていて…





そのハニカンダ笑顔は

蒼紫にだけ向けられていた…







( ・・さっきまでの笑顔とは全然違うな… )





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る