甘やかして

〈ユメノ視点〉









アオシ「起きろッ!」






おじさんの怒鳴り声で目を覚ますのは…

今日で5日目だった…






( ・・・しまった… )






剥ぎ取られた毛布に手を伸ばしながら

今日もまた嫌味を言われると思うと

益々布団から出て行きたくなくなり

何もかも忘れて二度寝をしてしまいたい…






アオシ「さっさっと起きろ!」





「・・・・・・」





電気をつけて眉を上げて

私を見下ろしているおじさんの

不機嫌顔を見ながら

「起こして」と小さく呟くと

眉をピクリとさせて

更に目は細くなり…

呆れた顔で見下ろしている






アオシ「お前いくつだ?

   毎日、毎日アラームが聞こえねぇのか?」






「・・・起こしてくれたら…起きる…」






アオシ「・・・はぁ…勝手にしろ…」







おじさんが部屋から

出て行こうとしているのが分かり

固い枕に顔を俯して

ぶちぶちと文句を零した…





「暗いし…寒いし冷たいし…

 知らない場所で…知らない人と住んでるのに

 おじさん…全然優しくしてくれないじゃない…」






アオシ「・・・・・・」






「知ってるのはおじさんだけなんだから

  ちょっと位…優しくしてくれたっていいじゃない」







そう…このお寺に来てから

私が誰かと話すのは…

おじさんとおじさんの両親だけで…




お寺の作法を何も知らない私は

あまり歓迎されていなかった…





2日目の朝…まで待てなかった私は

おじさんに褒められてもらいたくて

その日の夕食を作る時に

冷凍庫に入ってあった

お肉をステーキ風に焼いていると…





母「えっ!?」





お寺の掃除に行っていた

お母さんが戻って来て

驚いた顔をしてフライパンの中の

鶏肉を見て固まっていた…

質素な食事ばかりじゃ

おじさん達もキツイだろうと思っていたけど…





このお寺では…

お肉を摂る日が決まっていたらしく…

焼いたお肉が食卓に並べられると

お父さんは「はぁ…」とタメ息を吐いていて

誰も美味しいとは言ってくれなかった…





( ・・・そんな決まり事知らないわよ… )





結局…お母さんとおじさんが

住職のお父さんから「しっかり教えなさい」と

叱られていて…

あれ以来4人で顔を合わせる食卓が苦手だ…






アオシ「・・・楽して金が貰えると思ってたのか?」






「・・・・・・」






おじさんのタメ息が聞こえた後

足音が近づいて来たのが分かり

顔を横に逸らせておじさんを見ると

私の隣りに腰を降ろして

「さっさと起きろ」と手を出して来たから

体を向けて両手を「ん!」と差し出すと

おじさんは目を細めながら

私の両手を握ろうとしてきた






「違う…引っ張るんじゃなくて…」






アオシ「はぁ…20歳越えた女が何言ってんだ」






「・・・いつも…子供扱いするじゃない…」






おじさんが掴もうとした手を払いのけて

また両手をおじさんの方へと伸ばすと

おじさんは小さく舌打ちをして

私の脇の下に手を入れて

抱き上げようとしたから

伸ばしていた手をギュッと

おじさんの首に回して甘える様に抱きつき





おじさんの首元に顔を寄せると

お線香の香りがして…

まだおじさんがお坊さんだと

イマイチ信じられないけれど…

不思議と落ち着いている自分がいた…






「・・・おじさん…

  毎朝こおやって起こして?」






アオシ「ふざけんなッ」






体をグイッと離され

早く起きて台所に行けと言うと

スタスタと部屋から出て行くおじさんの背中に

「ケチ…」と呟いてから

枕元にある服に手を伸ばして

毛布の中で着替えを済ませた






おじさんが起こしに来たのは

4時10分過ぎで…






軽いメイクを済ませて台所に行くと

4時半を過ぎる事はなく…

初めてお母さんから寝坊扱いをされなかった


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る