偉い?

〈ユメノ視点〉










「ヒャッ!」





母「冷たいでしょ?笑」

 





真っ暗な4時半に起こされて

お寺の掃除をしろと言われた私は

勘弁してよと抵抗して

お母さんと一緒に朝食を作る事になったけれど…






母「洗い物は私がするから

  夢乃さんはお味噌汁をお願いしてもいいかしら?」






キッチン…そう呼ぶには

だいぶレトロな作りの台所に行くと

水道水がずっと出ているままだったから

不思議に思い止めようとすると

「山水だから」と言われ

そのままだと説明された…





( ・・・山水… )






山奥にあるこの場所は

昨日まで住んでいた地域に比べても気温が下がり

まだ11月のはずなのに

まるで1月の様な空気の冷たさに

身が縮こまる寒さで

水道から流れ出ているお水も

氷水の様に冷たかった





( ・・・1月とかどうなるのよ… )





この寒い季節に来たのは

間違いだったと思いながら

戸棚の中を覗いて

顆粒だしを探してみるけど

お砂糖や塩はあっても

コンソメなどの調味料はなく

別の所にしまってあるのかと

お母さんに尋ねてみると…





母「あぁ…うちは乾物からとるのよ」





「かん…ぶつ??」





またお寺用語かと思い首を傾けると

お母さんは少し驚いた表情をして

戸棚から袋に入った乾燥椎茸を取り出した






母「夢乃さんは…

  お料理はあまりされないのかしら?」






「・・・すっ…すみません…」






その後も狭いキッチンで

私がお味噌汁に入れる具材を切るのを

隣りでチラチラと見られているのに

気付きながらも必死に口角を上げて

「ほうれん草と大根のお味噌汁で大丈夫ですか?」

と問いかけながら作り続けた





( ・・・こんな筈じゃ… )






お母さんと一緒に

キッチンに並んで料理をするだろうと思い

1着10,000円近くした

ブランドのエプロンまで買って来たのに…




想像していたアイルランドキッチンではなく

後ろには釜戸らしき物まである土間の台所に

エプロンも泣いている気がする…






「お味噌汁と…後は何を?」






隣りのお母さんは、お米をといだ後は

仏壇用のお酒やお水の取り替え作業をしていて

メインのおかずを作ろうとしていなく…

何か残り物でもあるのかと思い尋ねると

お母さんは苦笑いを浮かべながら

「お漬物かしらね」と答え

「えっ…」とお鍋を混ぜていたお玉を止めた






( おかず…なしなの? )






せめて目玉焼きかウイナーだけでもと

思ったけれど冷蔵庫や戸棚の中を思い出し

何も言わずにほうれん草と大根の入った

お味噌汁を見つめた





「・・・・・・」






お寺だから…

贅沢はしちゃダメって事なのかなと

考えていると台所横についている

ガラスドアがカラッと開いて

おじさんが入って来た





( ・・・あっ… )






アオシ「住職が呼んでる」





母「あら、何かあった?」






お母さんは布巾で手を拭くと

おじさんが入って来たガラスドアから

外へと出て行きパタパタと

走って行く足音が聞こえてきたから

お玉を握っていた手を離し

おじさんの服を掴んだ





「絵本のお坊さんと同じ格好だ!」





アオシ「袈裟だ!!け・さ!!」





おじさんは私が掴んでいる手を

バシッと払いのけて

目を細めながら「覚えろ」と

怒っているけれど

テレビなんかで見る紫とかの

高級そうな坊さん服とは違い




昔話にでも出てきそうな

白と黒のシンプルで…

質素な雰囲気のこのお寺にはピッタリで

それを着ているおじさんも新鮮だった…





「・・・おじさん…

  本当にお坊さんだったんだ?」





アオシ「今更なに言ってんだ?」






お高いスーツ姿のおじさんの方が見慣れていて

てっきり良い所のサラリーマンかと

思っていたけれど…





目の前の袈裟…とか言う物を着ている

おじさんを見ながら

本当にお坊さんだったんだと思った…






( ・・なんだろ…ちょっとコスプレぽくて… )






スーツ姿のおじさんも良かったけれど

和風姿のおじさんも…

なんて言うか…






「・・・・良い?」





アオシ「はっ!?」






おじさんは「何がだ?」と

眉を寄せて首を傾げているけど

白い首筋と白い手首が…

余計に袈裟を着ているおじさんを

良く見せていて…






アオシ「・・・はぁ…

   風呂や山水の事で文句だらけなのが分かるが

   今は聞いてる時間ねぇから離せ…」





「・・・ん?」






気が付けば振り解かれたはずの

私の右手はまた、おじさんの服を掴んでいて

それを嫌そうな目で見下ろしている

おじさんに「なによッ」と言って

より強くギュッと握りしめると

おじさんは「はぁ…」と息を吐いて

「飯は出来たのか?」と

数歩先にあるお鍋の元へと歩いて行った






アオシ「ちゃんと出来たみてぇだな」






「・・・偉い?」






アオシ「・・・・・・」






おじさんは、お鍋から私の方に

視線を移すと「味噌汁だぞ?」と

呆れた用に言って

大きさの合わない蓋をお味噌汁の入った

鍋の上に乗せると

ガラスドアの方に歩いて行くから

服の袖を握ったまま着いて行くと

ピタッと立ち止まって

いつまで握っているんだとでも言うかの様に

目線を袖元に向けてきた






「・・・朝…4時半にも起きたし…

  朝ごはんだってちゃんと作ったわよ…」






アオシ「・・・・・・」






「・・・偉い?」






自分でも…

大した内容じゃ無い事は分かっているけれど…

甘やかされたかった…




偉い・良い子だ…と

おじさんから褒められて

頭を撫でて欲しかった…






アオシ「・・・・お前…朝何時に起きた?」






おじさんの言葉に「ん?」と思い

「4時半よ?」と答えると

おじさんは目を閉じて

呆れた様なタメ息を吐くと

「4時35分だろうが」と言われ…






アオシ「4時半に起きろって言われて

   4時半に起きるバカはいないんだよ!」






「よっ…4時半は4時半よ!」






アオシ「俺が起こしに行ってから

   目覚ましてただろうが!

   だいたい4時半に起きて

   着替えだのなんだのして

   出てきたのは5時過ぎだったろ!」

   




「・・・だって…」






スッピンでウロウロなんてしたく無く

起きた後にバタバタとメイクをして

着替えをしていたら…

その時間になってしまった…






アオシ「よく偉い?なんて言えたな…」





「こんなに朝早くに起きた事なかったし…

  朝食も…7時くらいかと思ってたもん…」






アオシ「・・・・はぁ…」






おじさんは…私と一緒にいて

タメ息ばかり吐いていて

全然笑ってくれない…






「・・・明日…」







アオシ「・・・・・・」







「・・・4時半には準備を終えて

   朝食を作ってたら……褒めてくれる?」







おじさんを見上げながら

そう問いかけると

おじさんはジッと私を見下ろし…






アオシ「それが当たり前なんだよ!」






そう言って私の額をビシッと

人差し指で弾くと

袖をグッと引っ張って手を離され

クルッと背を向けてガラスドアから

出て行く瞬間ある言葉が聞こえ

パッと顔を上げて

歩いて行くおじさんの背中を見つめた







( おじさんは…やっぱり…狡い… )






アオシ「旨けりゃ考えてやる」







さっきの言葉は

聞き間違いなんかじゃないと思い

冷蔵庫の中を覗いて

24時間も先の…

明日の朝食のお味噌汁の具材を考えていた













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