〈ユメノ視点〉










( じゅっ…住職!? )






おじさんが自分のお父さん達と話す会話を

笑って聞きながら初耳な内容に

思わずおじさんに顔を向けた…





「・・・サラ…リーマンじゃ?」





おじさんはニッコリと笑って

私の頭に手を乗せると

唇が小さく動き…

「黙ってろ」と言っているのが

口の動きで分かった…







父「夢乃さんは…

  蒼紫が僧侶だと知らないのか?」






アオシ「今までが雇われ坊主だったからな

   まさか住職だとは思ってなかったんだろ?」







雇われ坊主って何!?

と思いながらもおじさんに話を合わせ

笑って頷いているけれど

頭の中はクエスチョンマークだらけだった






母「坊守になる事も…大丈夫なの?」





お父さんの隣りで座っているお母さんが

心配そうにおじさんに問いかけていて

ぼう何とかって何と私も

おじさんに顔を向けると

おじさんは私をチラッと見て

その目は…呆れている…





何を言われても聞かれても

笑って頷いていろと言われたけれど

そんな演技派な事は向かいみたいで

どう言う事と言う目でおじさんを

見上げていた






アオシ「坊守は…住職の嫁の事だ」





「・・・お坊さんの…奥さん?」






アオシ「・・・・・・」






おじさんがお坊さんだと言う事も

今の今まで知らなかったし

私がなるボウなんとかなんて更に初耳だ





アオシ「夢乃…ちょっと来い」





おじさんの顔は笑っている様に見えるけど

わざわざお父さん達の前から離れた

場所へと私を連れ出すと言うことは

お説教でもされるんだろうと思いながら

おじさんが出て行った後を追っていくと

私の勘は当たっていて

振り返ったおじさんの目は

不機嫌気味に細められていて

私を睨む様に見下ろしている






アオシ「・・・記憶力がねぇのか

   理解力がねぇのか…どっちだ?」




 


「だって…おじさんが

  お坊さんだなんて知らなかったし…」






アオシ「今いる場所見れば分かるだろうが…」






「・・・普通は分かんないわよ…」






おじさんは腰に手を当てながら

「はぁ…」と呆れたタメ息を溢し

「約束は守ってもらうぞ」と言った…





( ・・・・・・ )





おじさんのお父さんは

この…小さなお寺の住職をしていて

夏過ぎから腰を悪くし

住職のお仕事を続けるのが難しくなった様で

おじさんが後を継ぐ為に帰ってきたらしい






「・・・なんで婚約者がいるの?」






アオシ「・・・・・・」






おじさんの話を聞いていると

婚約者が必要だとは思えず

おじさん一人で帰って来ても

良かったんじゃないのかと思えた





アオシ「・・・俺はもうすぐ31歳になる」



 



「えっ?早生まれ??

  って事は7つ上だったの?」






アオシ「・・・・6個離れていようが

   7個離れていようが関係ねぇだろ」






「・・・・それで?」






まるでフリだけの私達には

何歳離れていようが関係ないと

距離をとられた気がして

気分は一気に下がっていった…






( ・・・なによ… )






アオシ「31歳で独身の住職なんて言えば

   檀家の中には自分の家の娘だったり

   一人身の女を見合いで進めてくるだろうが」






「・・・ダンカ?」






アオシ「・・・お得意さんみてぇなもんだ」






さっきのボウなんとかの時の様に

聞き慣れない言葉が出てきて

首を傾げて問いかけると

おじさんは少し疲れた様なタメ息を溢し…





お寺の専門用語の分からない私に

面倒くさいと感じているのが

ヒシヒシと伝わってくる…







アオシ「とりあえず…

   3月の春季彼岸会までは

   お前にはいてもらわないと困るんだよ」






「ひがんえ…お彼岸まで?」






アオシ「・・・彼岸会が終われば

   住職継承法要で…俺はこの寺の住職になる」






「・・・・・・」






アオシ「住職になった後は…

   お前はこの寺から出て行っていい」






意味が分からなかった…

お見合いがしたくないから

アタシを婚約者として

ここに置きたいのは分かるけど

住職になった後こそ

お見合いはジャンジャン

くるんじゃないのと思ったからだ






( ・・・それに… )






「・・・おじさん…

  お見合いだろうなって言ってたじゃない…」






どうせいつかお見合いをするのなら

中途半端な婚約者がいたお坊さんよりも

最初から一人身の方が印象がいいような気がした…






アオシ「・・・・今は…必要ない…」






おじさんは小さな窓から見える

空を見上げながら

そう呟いていて…

その横顔は少し寂しそうに見えた…






「・・・・・・」






この人は…

ちょっとだけ不思議な空気を持っていて…




いつものきつい物言いの

失礼なおじさんだったり…

たまに見せる笑った顔は可愛かったり…




この…何を考えているのか

イマイチ分からない

独特な沈黙を持つ

このおじさんが…嫌いじゃなかった…





ペラペラと話が止まらない

おしゃべりな男は苦手だったし

口下手なタイプも…苦手だった…





おじさんは決して

会話をしていて楽しいタイプじゃないし

会話の半分以上は

お説教みたいな内容だし…






( ・・・苦手な筈なのに… )






不思議だけど…

おじさんの隣りは…居心地が良かった…






アオシ「文句や不満だらけだろうが

   5ヶ月間は…

  この貧乏寺の嫁見習いでいてもらうぞ」






「・・・・ここまで来たんだから…

   キッチリ50万円回収するわよ…」






おじさんがお見合いを

必要ないと言っている意味は

分からないままだけど…






「今日から5ヶ月間…

  このお寺のボンなんとかになる!」






アオシ「坊守だ…一回で覚えろ…

   あと、坊守は住職の嫁の呼び名だから

   お前がそう呼ばれる事はない…」






「じゃあ…坊守…見習いってやつかな?

  とりあえず!それになるッ!」






このお寺に嫁ぐなんて

ハッキリ言って嫌だし

5ヶ月間も耐えれるか自信もないけど…






「おじさんの隣りにいる!」






おじさんが誰かとお見合いをして

この田舎町の誰かと並んで

仲良く歩くと思うと面白くなかった…











   



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る