〈ユメノ視点〉










石階段を登っていくと

寺院…と言うにはだいぶ小さくて

古い建物が直ぐ目の前にあり…





首を横に動かすと

庭師が手入れしたとは思えない

乱雑にカットされた植木が並んでいて

まるで田舎町によくある

神主さん達のいない無人神社の様に見えた…






( ・・・お寺って…もっとこう… )






新年の参拝などは神社に行っていて

お寺とは無縁の人生だったけれど

学校の教科書やテレビなんかで見る

お寺のイメージはもっと

煌びやかで敷居の高そうなイメージがあった…





「・・・・寺子屋…的な…」





昔話にでも出てきそうな

小さなこのお寺に連想できたのは

その言葉だった…






アオシ「寺子屋なんて言葉知ってたのか?笑」





「・・・保育園の紙芝居でね…」






そう言って隣りにいるおじさんに顔を向け

この古いお寺とイマイチしっくりこない

見た目のおじさんに「ココって…」と

言いかけると「蒼紫」と

おじさんを呼ぶ声が聞こえた






母「お帰りなさい」






声のした方へと顔を向けると

60代後半…位に見える

おばさんが小走りで駆け寄って来た







( ・・・・・・ )






この人はきっと…

おじさんのお母さんなんだろうけど…






アオシ「ただいま、親父は?」





母「向こうにいるわ」






私が想像していたお母さんとは

だいぶ違っていて…






( 本当に…おじさんのお母さん? )






おじさんの実家を勘違いしていたのもあるけど…

私が想像していたお母さんは…

なんていうか…お手入れされた髪に

ミセスブランドの服を着て

ロイヤルコペンハーゲンみたいな

ティーカップで紅茶を飲んでいる…

そんなお母さんを想像していた…




でも…目の前にいるお母さんは…

商店街とかにいそうな…

いたって普通のおばちゃんに見える…






アオシ「夢乃、俺のお袋だ」






顔を向けてきたおじさんからそう言われ

少しだけ顔が熱くなっていった…





( 初めて名前で呼ばれた… )





「初めまして…八重桜 夢乃です」





お母さんに挨拶をして頭を下げると

目を動かしながら

「まぁ…可愛らしいお嬢さんね」と

私の服や顔をチラチラと

確認しているのが分かった




おじさんの手を引いて

奥に進んでいくお母さんに

少しだけ唇を尖らせながら

二人の後をついていき…

アタシ…お客様よね…と

手厚くない歓迎に顔を俯かせ

心の中で大丈夫かなとコレからの数ヶ月を

心配していると「コッチだ」と言う

おじさんの声に顔を上げて更に心配は増した…






「・・・・・・」





母「古い家だから

  びっくりさせちゃったかしらね…笑」





「・・・いっ…いえ…笑」






自慢じゃないけど…

愛嬌はある方だと思う…

いや…思っていた…






( ・・・田舎のお爺ちゃん家よりも古い… )






ほとんど…木しか見えない

その建物からは私がよく知る民家とは違った

独特の雰囲気と香りがあり…

家の周りには小さな窪みがあって

チョロチョロと微かな水が流れている




お母さんは私の考えが分かった様で

眉を下げて笑っていて…




そんな表情をさせてしまい

申し訳なく思うけれど

引き攣った頬は中々戻ってくれなく

山小屋の様な家をぼーっと見ていると

バシッとお尻を叩かれ

「婚約者の実家を見てそんな顔する女はいねぇ」と

耳元でおじさんが小さく囁き

ハッとして、おじさんとの約束を思い出した





( ・・そうだ…いいお嫁さんでいなきゃ… )





必死に口角を上げて

家の中はどうなっているのかと

恐る恐る足を踏み入れると

今風な明るいフローリングではなく

濃ゆい色の木で出来た廊下を歩いていくと

お線香の香りが鼻をかすめた





( ・・・・お墓の匂いだ… )





実家に仏壇はなく…

お盆の季節に納骨堂と言う場所に

手を合わせに行くだけだが

あの建物の中と同じ香りに

なんだか変な気分になった…




決して臭いとか言うわけではないが

嗅ぎ慣れない香りに

足の裏や背中が…むずむずとしてくる…





今ここにいる事が不思議に感じ

ふわふわとした現実味のない感覚に

不安が増したのか

気がつけばおじさんの服の裾を掴んでいて

それに気づいたおじさんが顔を向けてきた





アオシ「ふっ…お前に緊張なんてもんがあったのか?」





「・・・・手…繋いでて…」






おじさんは今からお父さんに挨拶をする事に

緊張していると勘違いしているみたいだけど…

可笑しそうにコッチを見て笑う

おじさんの顔をみたら

ふわふわとした感覚は薄くなっていき

おじさんの歩いた後の床だけは

ハッキリと見える気がした





アオシ「はぁ… 俺は

  人前でイチャつく趣味はねぇんだよ…

  ましてや家族の前だぞ…」





「・・・・・・」






おじさんは前を歩く

お母さんに聞こえない様にそう呟くと

顔を前に向けて歩き出し

手を繋いでくれようとはしないから

掴んでいた裾から手を離して

おじさんの左手に手を伸ばしてみた






( ・・・おじさんはズルい… )






公園でのキスも…今も…

おじさんは、やっぱりズルい…





おじさんからは決して 

何もしてくれないけれど

私からすれば…拒んだりはしない…





手を引いて歩いてくれる

おじさんの背中を眺めていると

自然と口角は上がっていき

引き攣った頬もなくなっていた






( ・・・5ヶ月は…一緒にいれる… )









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