おじさんの秘密…

〈ユメノ視点〉











「・・・ここ…」






アオシ「そう…ここがお前の職場だ」






「・・・・おじさんって…」






アオシ「そう言う事だ…笑」






「・・・・えっ…」






 

車の中でおじさんから提案された

住み込みの仕事というのは

おじさんの婚約者のフリだった…






「こっ…婚約者って…

 結婚はお見合いだろうなって言ってたじゃない」






アオシ「だから!フリだ!フリ!」






「そんな…ドラマみたいな話…ある?」






アオシ「何のドラマ見てんだ?」







嘘みたいな提案をしてきている

おじさんの方が呆れた目を向けてきていて

少しムッとしながら

「なんでフリなんかがいるのよ?」と

問いかけると

おじさんは面倒くさそうに

「うちは色々と複雑なんだよ」と言って

車から降りると木しかない周りを見渡している






「・・・遺産相続問題とか?」






アオシ「遺産つぅーか…」






「・・・・・・」






アオシ「お前は俺の婚約者として…

   春まで嫁として俺の実家で暮らす

   それがお前の仕事だ」







普通ならそんなバカみたいな話は

受け入れたりしない…





恋人でもないおじさんと一緒に

暮らすのも変な話なのに

その家族と一緒に同居するなんて…





( ・・・でも… )





50万円があれば…

初期費用も家電品もそろえられるし…




住み込みの間の家賃も食費もかからないし

今ある微々たる貯金と

来月入る最後のお給料に手をつけなければ

春からの新しく生活に備えられる…






( ・・・それに… )






アオシ「・・・・どうする?」






「・・・やる…」






おじさんと一緒にいられる…

そう思うと頭の中ではありえないと

叫んでいる筈の私の口からは

「婚約者になる」と言っていた…







アオシ「・・・一度家に入ったら

   春までは逃げられねぇぞ?」






「・・・春になったら逃げれるの?」






アオシ「春になればいつでも出て行っていい」






 ( ・・・春まで… )






アタシはおじさんの言う通り

バカな女だと思う…




後藤君の事も…

神宮寺先輩の事も…






( そして…今回の事も… )





マンションの荷物を取りに行き

近くのビジネスホテルで数日過ごした後

会社に辞表と制服を届けに行って




ロッカーやデスクにある私物を

片付けながら周りから囁かれている

言葉にグッと奥歯を噛み締めた





( 別に…やりがいのあった仕事じゃない…)





いつか…結婚をして…

寿退社で辞めるつもりだったし…




そう思いながら荷物をまとめて

会社から出て行き

冬の始まった11月の空を見上げ

5ヶ月後の…桜の季節になったら

また…OLとして働いているのかなと思った





おじさんの実家は

多分…敷居の高い家だろうから

持っている服の中でも

1番高いよそ行き用のワンピースを着て

迎えに来たおじさんの車に乗り…





「ねっ!コレどお?」





アオシ「・・・・・・」






おじさんの方を向いて両手を差し出して

昨日新しくやりかえたばかりの

ネイルを見せると

おじさんは眉を寄せて

何か言いたげな顔をしている





「一応ベージュで

  大人しめなデザインにしたんだけど…

  おじさんのお母さんはどんなのしてるの?」





アオシ「何もしてねぇ…」





「えっ?クリアとか?

  それか磨いたりするだけ?」






おじさんは「はぁ…」と呆れた様な

タメ息を吐くと目を細めながら

私の爪を見て

「それ自分ではげるのか?」

と聞いてきた…






「自分でとか無理だよ!

 自爪が傷んじゃうし…

 いつもサロンでとってもらってるけど」





おじさんはあまりいい表情をしないから

優しいピンク系の方が良かったかなと思ながら

自分の綺麗に手入れされた爪を見ていると

「取ってこい」と聞こえてきた…





「えっ!?」





アオシ「1時間やるから全部取ってこい」






おじさんからネイルサロンに連れて行かれ

30分かけて昨日つけたばかりの

ジェルネイルを落とし…

車の中で唇を尖らせていると

「お前は学習能力がねぇのか」と

ハンドルを叩きながら

「無駄遣いをするな」と怒っている

おじさんにムッとした…





おじさんが紹介をする時に

恥をかかない様にと

ネイルをやり変えて美容室に行き

まつげパーマのメンテナンスまでしてきたのに

「無駄遣い」と言われ

唇はどんどん突き出ていき

窓の外に顔を向けたまま黙っていた





おじさんも煩いお説教をやめた後は

黙ったまま運転を続けていて…





( ・・・・・・ )





高速道路を降りた後は

ずっと山道を走っていて

何で大通りを走らないんだろうと

不思議に思いながら揺れる車の中で

これからの5ヶ月間の事を考えていると…






アオシ「降りろ」






数時間走り続けある場所に車を止めたから

トイレでも借りるのかなと思っていると

「着いたぞ」とシートベルトを外すおじさんを見て

「えっ?」と固まった…






( ・・・着いたって… )






アオシ「お前どんな所だと思っていたんだ?笑」





「・・・・住む世界が違うって…」






車から降りると

鳥や虫の鳴き声が少し遠くから聞こえていて

本当に山の中で…




私の目の前には苔の生えた古い石階段があり

その隣りには大きな石碑の様な石に

弦蒸寺と刻まれていた…





「・・・お寺…」





おじさんの実家は

私が想像していた場所とは全然違い…




昔話に出てくる様な

山の中にある…小さなお寺だった…














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