自由に…

〈ユメノ視点〉










ミキ「夢乃ってさ…

  男を〝異性〟としてか見れないよね?」






「ん??だって…

 付き合えるか…付き合えないか…

 雄か雄じゃないか…じゃない?」






ミキ「男友達になる場合もあるよ…

  そんな考えだと寂しくない?」







学生時代に女友達から

言われたあの言葉を思い出しながら

バス停のベンチに座っていると

「あの…」と声をかけられた






男「お姉さん…

  もう2時間以上ここに座ってますよね?笑」






「・・・・・・」






他の人の迷惑になるから退けと

言われるのかと思っていたけれど

声をかけてきた少し年下の男の子の表情を見て

「ふっ…」と小さく鼻で笑った…





男の子は後藤君や神宮寺先輩の様な目で

私を見ている事が分かったからだ…






( ・・・・荷物…出さなきゃ… )






桔平との電話を切った後

部屋を探してくれている店長さん達のいる

店内へは戻らずにふらふらと歩いて行き

脚の疲れを感じて周りを見渡すと

普段通ったりしない裏の通りで

たいして利用する人もいなさそうな

バス停のベンチに腰を降ろしていた






男「なんかあったの?笑」






隣から聞こえてくる

何の悩みも無さそうな

陽気な声を聞き流しながら

今何時何だろうと思った…





桔平の帰って来る23時までには

荷物をまとめなくちゃいけないし

住む場所も探さなきゃいけないのに…






ミキ「夢乃は…逃げる癖があるよね…

   何か嫌な事があると直ぐに逃げる…

   だから、誰とも続かないんだよ…」





   

( 美紀とは…どうなったんだっけ… )






ずっと忘れていた苦い記憶を思いだし

私に寂しい…逃げてばかりだと言っていた

あの友人とはどうなったんだっけと

自分の記憶の中の古い引き出しを開けていき…


 




( ・・・・逃げたんだ… )






思い出した引き出しの中身に

目を閉じて「美紀の言う通りだな…」と

小さく呟いた…





私は美紀とは距離を置いて

少しずつ離れていったんだった…






そして今日も全部から逃げて

こんな所でボーっとしているんだと

思っていると「ねぇ、お姉さん?」と

肩に回された腕にゾクリと嫌な物を感じて

「やめてッ」と手を払いのけて歩き出すと

「待てって」と手首をグッと掴まれた





男「あんな所に座って

  男が声かけてくるの待ってたんだろ?笑」






「・・ッ・・」






何で皆んな…

アタシをそんな風に見るわけと

怒りじゃなく悲しさを感じて

掴まれている手を振り払おうとすると

一台の軽自動車が道路脇に止まり

この男の子の友達かと思って

他の車に顔を向け

助けを求めようかと思っていると






アオシ「さっさっと乗れ」





「・・・えっ?」






軽自動車から降りて来たのは 

予想もしていなかった

まさかのおじさんで

なんで…と驚いていると

「さっさっとしろ」と私と

私の手を掴んでいる男の子に

目を細めながら言い…





何とも言えない圧迫感に

「離して…」と男の子の方に顔を向けて言うと

男の子も「彼氏さん…すか?」と

少し怯えた様に小声で言い、パッと手を離し

まるで銃を向けられているかの様に

手を宙に上げている…





( ・・・・おじさんが彼氏… )





おじさんは運転席の扉横に立ったまま

コッチを睨んでいるだけで…




普通なら駆け寄って来て

「手を離せよ」みたいな事を言って

助けたりするんじゃないの?と…

イマイチ助けられた感の無い

この状況に少しだけ眉がムッと寄ったけれど

さっきまで感じていた胸の

騒めきも苛立ちも消えて…なくなっていた…





おじさんの目が早くしろと言っているのが分かり

小走りでおじさんの…軽の車のドアを開けて

助手席に自分の腰を降ろすと

おじさんも運転席へと乗り

シートベルトを装着して車を走らせだした





( ・・・・なんであそこに… )





チラッとおじさんに目を向けると

「お前会社はどうした」と言われ

自分の服が制服姿のままだった事に今気付いた…





今週から少しだけ寒くなりだし

会社の制服の上にトレンチコートを羽織って

出社をしていて帰る時にだけ

ロッカールームで私服に着替えていたけど

今日はそんな余裕もなく…





アオシ「・・・会社どこだ?」





「・・・・・・」





おじさんが私を会社に送り届けようと

しているのが分かり黙ったままでいると

脚の上に置いてあるバックから

鈍いバイブ音が聞こえ出し

バックからスマホを取り出すと

会社からの電話だった…





「・・・・もしもし…」





車に設置されている

サウンドボタンをギュッとゼロにしてから

通話ボタンを押すと

電話の向こうから咳払いをした後に

「もしもし」とミーティングルームで別れた

課長の声が聞こえてきた






課「あー…神宮寺からも話を聞いて

   上や…人事部とも話し合いをしたんだが…」






「・・・移動…ですか?」






課「その方が…働きやすいだろう君も」






課長の声は朝よりも落ち着いているけれど

私に対しての信用が

無くなっている事は伝わってきたし…

神宮寺先輩の話を

信じたという事もよく分かった…





「・・・・逃げて…ばかりか…」





そう小さく呟いた後に

「会社を辞めます」と課長に伝わる声の大きさで

ハッキリと言うと課長は驚いた様子もなく

「そうか」とだけ言い

課長も…会社側も…

それを望んでいるんだろうと思った…





入社2年目の使えない私なんかよりも

営業職の信頼もある神宮寺先輩を

会社が選ぶのは当たり前だし

全部…私のした事が原因だ…





手続きの処理などは

また連絡をすると言われてから電話を切られ…

スマホを耳から離すと

おじさんは私がゼロにした

サウンドの音量を元に戻して

ただ…車を走らせていた






「何があった?」なんて事を

問いかけてこないおじさんに

何でそんなに無関心なのよと

感じながら顔を窓にそらすと

サイドミラーに映る

自分のぐちゃぐちゃな顔を見て

「ンッ…」と声を漏らして顔に手を当てた






おじさんが何も聞いてこないのは

今の私には説明出来ないからなんだと分かり

自分の瞳に溜まっている涙を

我慢する事なく声を上げて

自由に流させてあげた…



















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