〈ユメノ視点〉









アオシ「リップ男?なんだそれ?笑」





「もう30分もしないで

 こうヌリヌリと何度も塗り直すのよ!」






本当は映画をラストまで見たかったけれど

おじさんの言葉通りの結末になるのを

見る勇気がなく液晶から顔をそらせて

おじさんと話をしだすと…





アオシ「他にはないのか?笑」





おじさんは今までの

私の恋愛話しが気に入ったらしく

「どんな奴等がいたんだ?」と

聞いてくるから素直に…全部話していった…





アオシ「しゅくりんマジック?笑」





「苗字が宿利だったんだけど…

  いい年超えた28歳のおじさんが

  ファミレスでそんな事言うから恥ずかしくて」






21歳の時の時付き合った

旅行代理店に勤めていた宿利さんが

休憩時間に私に会いに来てくれて

近くのファミレスで

デザートだけ注文して食べていると





シュクリ「夢ちゃんはまだまだ俺に本気じゃないね?」





「えっ??」





知り合って付き合うまでの時間もそんなになかったし

そこまで大好きというわけではなかったけど

そんなのソッチもじゃないのと不思議に感じていると






シュクリ「よぉーし…

   しゅくりんマジックでメロメロにしちゃうぞ」






「・・・・・・」


  




大学3年生だった私には

28歳の宿利さんは大人の男性に映っていて

スーツ姿もカッコ良く見えていたけれど

この日を境に連絡をやめて早々に別れた…






アオシ「お前の話は…おもしれーな?笑」





「・・・周りわね…」






多分周りから見たら

笑い話なんだろうけど

アタシにとっては…どれも…





アオシ「お前のまともな恋愛話は

   今の同棲野郎が初めてってわけだな」






「彼氏は沢山いたわよ…」






アオシ「ふっ…肩書きだけは彼氏だろうが

   お前は相手の事を何も見ちゃいねぇし

   見ようともしてねぇんだから

   すれ違った通行人と一緒だろ」






「・・・・何よ…」






男性に自分の過去の恋愛話なんてした事なかった…

ハッキリ言ってマイナスな情報だし

付き合った人数なんて少ない方が

いいに決まってるから…





( ・・・だけど… )





隣りでまたタバコを取り出す

おじさんに…嘘は吐きたくなかった…




「話せよ」と面白がって問いかけてくる顔は

いつもの呆れ顔や不機嫌顔とは違って

距離が近くなった感じがしたから…





( ・・・・・・ )






「おじさんの恋愛話もしてよ…」






アオシ「お前みたいに笑える話はねぇぞ?笑」






「本人は笑えなくても

  周りから見たら笑い話なのよッ!」






アオシ「・・・・お前とは…逆かもな…」






「逆って?」






おじさんはまた何も話さなくなって

タバコの煙りを小さく吐き出しては

ぼーっとしている





おじさんは余り自分の話をするのが

好きじゃないんだろうなと思い

目の前にあるピスタチオを手に取って

空腹感のある空きっ腹に与えてあげていると

「何か食うか?」と聞こえてきて

顔を向けると「俺も腹が減った」と言って

マスターからメニュー表を受け取り

軽くつまめる物を何点か注文していた





「・・・・ぁっ…」





何気なく顔を上げると

少し前まで顔を向けていた液晶が視界に入り

映画のラストシーンだった…





( ・・・・見たくなかったかも… )





そう思いながら液晶を見上げていると

「映画でもダメだったか?」と

おじさんの声が聞こえてきた






アオシ「所詮…そんなもんだろ」





「・・・おじさんの実家って

  もしかして物凄くお金持ちなの?」





アオシ「うちが?笑」





「だって…住む世界が違うって…」






おじさんは「あぁ…」と言って笑い出し

また何も答えてくれないから

「おじさんは結婚しないの?」と聞いた





アオシ「・・・・・・」





「お見合い?」





アオシ「・・・だろうなぁ…」






きっといい所のお嬢さんと

結婚するんだろうなと思い

特別美味しいとも思わない

ピスタチオに手を伸ばしながら

小さく肩を落とした






「おじさんだったらプロポーズの時なんて言う?」





アオシ「はっ??」





「決め台詞みたいなのあるじゃん

  死ぬまで守り抜くからとか何とか」





アオシ「守り抜く?笑

   お前は映画の見過ぎだぞ」





「女の子は皆んなそんなもんだよ…

  お見合いだからって…

  ちゃんとした言葉は欲しいはずだから

  それなりの言葉用意しとかないと」






自分でそう言いながら

胸の奥がチクチクとした妙な

苦しさを感じていて

変な感じだった…




「いいかも!」と思った相手全員と

付き合えたわけじゃないし

ダメだった時だってあったけれど

こんな風に傷付いたりした事はなかった…






( ・・・おじさんとは…赤い糸じゃないのかな… )






アオシ「いたってシンプルだぞ」





「・・・へっ?」





アオシ「後生大事にする…

   それ以外言わねぇだろうな」





「・・・ご…しょう?」





何それと質問すると

また馬鹿扱いされそうで

何も聞けずにいると

料理を手に近付いてきたマスターが

「後生大事にするよですか」と

笑いながらお皿を置いた





アオシ「聞き耳はたててもいいが

   口にしたらマスター失格だぞ?笑」





マ「いや、蒼紫さんらしい言葉だと思いましてね」



  



マスターにどう言う意味ですかと

顔を向けて問いかけると

マスターはクスッと笑って

「一生大事にするでしたっけ?」と

おじさんに顔を向けた





アオシ「ふっ…

  マスターもまだまだ勉強不足だな…」





マスターの言葉の意味じゃないんだと分かり

おじさんの腕を引っ張って「本当の意味は?」と

問いかけるとおじさんは面倒くさそうな目を

また私に向けてきて「はぁ…」と息を吐いて

胸ポケットからペンを出し

お皿と一緒にマスターがテーブルに置いた

紙ナプキンに「後生」と書き込んだ






「・・・残りの人生大事にするって事じゃないの?」





アオシ「・・・それなら今生大事にするだな…笑」





「こんじょう?」





マ「あぁ!後の生…来世でもって事ですね」





「・・・・来世でも?」







数分前まで自分が憧れていた筈の

「死ぬまで守り抜く」の言葉が…

急に安っぽく思えてきて…





目つきも悪い

甘い優しさもないこのおじさんから

この言葉を捧げられる相手を…

すごく…羨ましく感じた…






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