〈ユメノ視点〉









「・・・・ふんッ…」





お風呂から上がり

あのレシート裏に書かれている事を

思い出して小さく鼻を鳴らしながら

桔平が買い置きをしていた

ビールを冷蔵庫から取り出した





( ・・・・別に… )





おじさんがレシート裏に書いたのは

名前なんかじゃなく…





「・・・・・・」





アオシ「多少の縁ってなんだ?笑」






私が思っていた〝多少〟は〝多生〟だったようで

「似たようなもんじゃない」と

自信満々に間違えた自分が恥ずかしく

唇を突き出しながら言うと

「意味が変わるだろうが」と笑うおじさんに

「縁は縁よ…」とボソボソと言うと

おじさんは「縁ねぇ…」と呟いて

結局…名前を教えてくれなかった…






「・・・そこまで知りたかったわけじゃないけど…」






ビールを飲みながら

言い訳の様にそう独り言を言って

「住む世界が違う」と

おじさんから言われた言葉に…

少なからず傷ついていた自分を慰めた…





「・・・・・・」





桔平のいない部屋で

30歳のおじさんからも相手にされない自分に

なんだかなと感じていると

スマホの着信音が聞こえてきて

「はぁ…外泊ですか?」と

桔平からかなと思いスマホを手に取ると…





( ・・・・誰だろ… )





画面には知らない番号が表記されていて

首を傾けながら通話ボタンを押した






「もしもし?」





マモル「こんばんは…大丸不動産の後藤です…」






耳に当てたスマホから聞こえてくる

声と名前に何となくガッカリしている自分を

不思議に思いながら「あぁ…」と言った






「今日はありがとうございました」





マモル「何件かご紹介したい物件がありまして

   今お時間とか…大丈夫ですか?」






チラッと消音にしたままついている

テレビ画面を見て右端に22時03分と

表記されているのを見て

後藤君が私にどんな目を向けているのかが分かり

どうしようかなと悩んだ…




桔平とは別れる事は決まっているし

向こうも私にどうこう言える立場じゃないし…





( ・・・顔は…まぁ…普通だし… )





桔平や神宮寺先輩に比べたら

多少…カッコ良さは薄れるけど

あの営業マン独特の爽やかな笑顔は

嫌いじゃないしなと思い

本来なら非常識な時間の

この電話の相手をする事にした





「大丈夫ですよ…笑」





マモル「良かった…遅い時間だったから

   どうかと思ったんですけど

   急がれているみたいだったので」






後藤君は電話口で部屋の話しを10分ほどすると

直ぐにプライベートな会話を挟んできて

ヤッパリねと思いながら相槌をうち

「彼氏いるんですか?」の質問にも正直に答えた






マモル「浮気ですか…

  だから急いでいたんですね…」





「まぁ…はい…笑

 できたら1日でも早く別れたいから」





マモル「分かりました!

   僕も出来る限り協力しますね!」






どうせなら初期費用を

サービスしてよと思いながら話していると

次の週末にでも何件か内見に行こうと誘われ

特に予定もなかったから首を縦に振った






( ・・・・後藤君は何色の糸なんだろう… )









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