縁…

〈ユメノ視点〉








「・・・・ホテルとか行かないわよ?」





おじさんが入ったのは

個室になっている

少しだけ敷居の高そうなお店で…




なんでもない相手を連れて来る様な場所には思えず

食事の後、ホテルにでも連れて行かれるのかと思い

目を細めて睨む様にそう言うと

テーブルを挟んで目の前に座っているおじさんは

タバコを咥え呆れた様に首を振った





アオシ「頼まれたってゴメンだな…笑」






「失礼ね!!どう見たって

 30のおじさんから見たら若い24歳の

 アタシの身体を抱きたいはずじゃない」






アオシ「ふっ…どうせ抱くなら

   もう少し若いほうがいいけどな」






「なッ!?」





おじさんの返答に怒って

お冷の入ったグラス下にあるコースターを

パシッと投げつけてやると

「早く選べ」と言って気にする素振りもなく

自分はアルコールのメニュー表を開いて見ている





「・・・感じ悪いおじさんね…」





「ふんッ」と小さく言って

メニュー表に目を落としながら

こんなお店はいつぶりだったかなと考えた…





当たり前だけど桔平と知り合ってからは

他の男性とこんな風に食事をするのは初めてだし

桔平と…こんな特別なお店に来るのは

数ヶ月ぶりで…





( ・・・・ただの同居人だったよね… )





あの占いの日をきっかけに

開けてはいけないパンドラの箱を

開けてしまった私には

同棲をしていたはずの彼氏はいなく…




開けた瞬間はパッと眩しく光って

驚いたけれど目が慣れて

箱の中を覗くと何も入ってなかった…





( 早く部屋見つけて出て行きたいな… )





次こんな良いお店に来れるのは

いつになるか分からないし

遠慮なく注文してパクパクと食べていると

おじさんは呆れた顔をしている…





「だって…こんないい所

 いつ来れるか分からないし…」





アオシ「・・・・あの彼氏はどうした?」





「・・・・・・」





アオシ「この前はまだ一緒に住んでるっつって

   ゴミを押しつけて帰っただろうが」






何も答えないでいると

おじさんはタメ息混じりに

「占いなんか信じて別れんのか?」と

呆れた声で問いかけてきたから

桔平のスマホを見た事を話すと

口を小さく開けたまま引いた目を向けてきた…






アオシ「スマホ覗く女ってホントにいるんだな…」





「今時…3人に1人はいるわよ」






私の言葉に「はぁ…」とタメ息を吐いて

何故ロックを解除できたのか聞いてきたから

食器洗いをしている私に背中を向けて

解除コードを入力しているのを

たまたま見た事を教えると

「目と記憶力はいいんだな」と

可笑しそうに小さく笑って





アオシ「他人の秘密覗いたって

   いい事なんて何もないぞ…」






日本酒の入ったお猪口を持ち上げて

クイッと飲み干していた…





「・・・・おじさんは?

  おじさんも何か秘密あるの?」





アオシ「人間…秘密の一つ二つあるだろうな…笑」





手酌でお猪口にお酒を注いでいる

おじさんの姿を見ながら

顔といい会社に勤めてる事しか

知らないなと思い「ねぇ…」と問いかけた





「おじさんって…ホントはいくつ?」





アオシ「お前がさっき言った通りのおじさんだ」





「・・・・ヤッパリ30歳なんだ…

  おじさんの会社っていい所なんでしょ?」





アオシ「普通のなんて事のない会社だぞ…笑」





そんな筈ないじゃないと

着ているスーツに目を向けて思いながら

「おじさんの名前って何?」と問いかけると

おじさんはスッと目線だけ向けてきて

数秒私を見た後に「フッ…」と鼻で笑い






アオシ「お前と俺じゃ住む世界が違うから

   名前なんて知ったって意味ないぞ?笑」






「そりゃ…大した名前の会社じゃないけど…

 勤め先で人を判断するなんて

 人生損してるわよ…ふんッ…くそジジ…」






アオシ「人生損してる?笑

   お前年の割に

  田舎のばーさんみたいな事ばっかり言うな」






「アタシの年齢なんて知らないくせに」






「24だろうが」と言うおじさんに

何でと目を向けると

「来年にはバージンロードだったのにな」と

感じの悪い笑みを浮かべていて

あのバーで知ったんだと分かった






「おじさんみたいな考えだと

 袖がぶつかったって縁なんて無さそうね」






アオシ「袖?・・・あぁ…さっきのやつか…」






おじさんは少し考えた後に

内ポケットからボールペンを取り出して

「紙だせ」と言ってきたから

「へ?」と言うと「レシートか何かあるだろ」と

手を出してきて…

「レシートって」と言いながら

財布からおじさんの言う通り

1番手前にあったレシートを差し出した





アオシ「・・・賃貸…情報誌?」





今日のお昼代を我慢してコンビニで買った

あの本のレシートだったんだと思いながら

「別にいいでしょ」と言って

箸を握り食事を続けようとすると

おじさんはレシートに何かを書いて

「ほら」と差し出してきたから

名前か番号かと目を向けると…





「・・・何…これ…」





レシートの裏面には

【  り合うも   の縁】と…

まるで学生時代のテストの様に書かれていて

「書けるか?」と笑ってコッチを見ている…





「・・・書けたら?」





アオシ「名前教えてやるよ…笑」






絶対に書けないと思っているのが

おじさんの笑みから伝わり

「ふんッ」と言って

ペンを手に取り空白部分の漢字を埋めて

「どーぞッ!」と差し出すと

おじさんはレシートを見て

「ふっ…」と鼻で笑うと

お猪口持ち上げてまたクイッと飲み干し…





アオシ「残念だな」





と言ってお猪口をテーブルに置くと

ペンを持ってレシートに書き込みだした…
















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