背中…

〈ユメノ視点〉









マモル「この物件とかお勧めですよ」





「サービスルーム?」





マモル「広さはそうないんですけど

   ベッドは置けますし…

   何ちゃって1LDKみたいな?笑」






仕事帰りに不動産屋へと寄り

いい物件はないかと相談をしてみると

リクルートスーツを着た

初々しい男性スタッフ君が担当してくれて

歳も近いからか色々と要望を言いやすかった





「初期費用はグッと抑えれて

  綺麗で交通の便もいい所だしてよー」





マモル「んー…ロフトはダメです?」





「絶対イヤッ!!」






出された焙じ茶を飲みながら

2時間近く粘ってみても

私を唸らせる部屋は出てこず

ヤッパリ無理かなとバックに手を伸ばすと

「八重桜さま」と呼ばれ

帰ろうと準備をしている体はそのままで

顔だけ向けると2時間担当をしてくれた

後藤君が「まだ僕も探してみますから」と言って

ニッと笑っていた





「・・・・じゃあ…期待して待ってるね…笑」





マモル「ハイッ!笑」






そう言ってお店から出て行き

数歩歩いた所でスマホが鳴りだして

画面を見てみると桔平からだった






「・・・・もしもし?」





キッペイ「もしもしお疲れ

    夢乃…悪いけど今日も遅くなるから

    先に寝てていいからな?」





「うん…分かった」





キッペイ「戸締りはしっかりして寝ろよ」





「はいはい…笑」






通話時間のカウントが終わった画面を見ながら

「お忙しいみたいで…」と皮肉を溢し

スマホをバックの底に落としてから

今晩は何を食べようかなと

重い足取りで歩き出した…





桔平は…週の半分は〝残業〟をするようになり

少しずつ顔を合わせる時間も減っていって

まるで一人暮らしをしているかのように

あの部屋で過ごす事が多くなっている





( ・・・・別れも近いかもね… )





いつ桔平が別れを

切り出してくるのかも分からないし

コッチも早めに部屋を押さえていた方がいいよねと

考えていると少し前に

何となく気になる後ろ姿が見え

歩く足を早めてその背中を追った





( ・・・あのスーツにあの…背中… )






「ハァ…ハァ…まっ……ててばッ!」





綺麗に伸びた背筋は

スタスタと優雅に歩いている様に見えて

意外と歩く速度が速く

早歩きから小走りに変え…

最後には息を上げるほどに走っていた


    




「お…ッ……さんッ!」





アオシ「・・・・・・」





やっと腕を捕まえて

「ハァハァ…」と息を整えながら

あの目つきの悪い目を見上げていると

「またお前か」と少し目を細めて

嫌そうな顔をしているけど気にせず

「どこ行くの?」と問いかけた





アオシ「・・・・息抜きだよ」





「息抜き??」





アオシ「飲みに行くんだよ」





何となくラッキーと思い

連れて行ってと言いかけると

「行くのは飲み屋だ」と言われ

今度は私の目がムッと細くなった…






アオシ「だから真っ直ぐ帰って飯でも食え」






とまた歩きだした

おじさんの背中をまた追って走りだし

パッとおじさんの前に立ち

「アタシが相手してあげる」と言うと

「ハッ?」と眉を寄せている






「今日は…夢乃スナックが相手してあげるから

  そんな香水のキツイお世辞ばっかりの女の子は

   また今度にして一緒にお話ししましょっ?笑」



 



アオシ「・・・・頭にウジでもわいてんのか?」





スーツや品のある立ち振る舞いとは違い

感じの悪い言葉遣いのおじさんは

「フッ…」と呆れた様に鼻で笑って

「今日は弁当なんかないぞ」と言うから

「同伴スタイルでいいわよ」と

親指と人差し指でクッと丸を作り

右手でOKのポーズを取ると

「また、たかる気か」と私から目線を外して

周りに目を向けだしたから

更にムッときて「聞いてるの?」と問いかけた






アオシ「・・・はぁ… 」






「・・・あのねッ!

  人と人の縁っていうのは大事にするべきよ?」






アオシ「・・・・・・」






「袖振り合うも多少の縁って言うでしょ?」






アオシ「そんな言葉よく知ってるな?笑」







さっきまでの全然相手にしていない

態度と違い目線を合わせて笑う顔を見上げて

少しだけ…嬉しさを感じ

「おじさんなだけにことわざが好きなのね」

と笑って皮肉を混ぜて返すと

「生意気なガキだな…」と小さく笑って

どうしようかなと悩んでいるのが分かり

「一軒だけでいいわ」と伝えた



 



「一軒だけ付き合ってくれたら

  解放してあげるからパッと行って

  パッと帰っていいからね…ネッ??」





アオシ「同伴にしてはずいぶんと

   色気のねぇ誘い方だが……」






数秒間を置いた後に

「ことわざの褒美に特別だ」と言い

スーツのポケットに手を入れて歩きだした

おじさんに小走りでついて行った






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