〈ユメノ視点〉








マリコ「まーまー!落ち着いて!笑」





「・・・・・・」





マリコ「逆に良かったんじゃない

   早く分かっちゃった方が?笑」






ガバッと机に俯していた上体を起こして

隣りにいる麻梨子に「この…裏切り者…」と

言いながら恨めしく睨むと

麻梨子は「あははは…」とわざとらしい

乾いた笑を浮かべながら

目の前に出されているオリーブを

指に取って口に持って行くとチュパッと

指を舐めている…





あの後…

一緒に占ってもらう予定だった麻梨子は…






マリコ「あっ…あの…

   恋愛運は一切何も言わないでください!

   仕事とか…健康とか…

   あっ!!今のアパートの運気とかを…」






と言って今の彼氏の事は何も聞きたくないと

本来聞く予定にもなかった健康運などを

「なるほど」なんて相槌をうちながら聞いていた…





占いの後に少し高めの美味しいお店に

ランチコースの予約をしていたけれど…

味なんて分かる訳がなく…




ほとんど放心状態のまま

占い師から言われた

「運命の相手ではありません」の

あの言葉がずっと頭の中を流れていた…





マリコ「だって…みっちゃんとは

   もう結婚の話も出て…ホラッ!

    婚約指輪も貰ってるのに

   今更何か聞いて破談なんて嫌じゃん…」





「・・・・・・」





麻梨子は先月…

6年付き合っている彼氏から

ようやくプロポーズをされ

左手の薬指には綺麗な指輪が光っていた…




麻梨子と同じ…

今年24歳になる私も

波に乗って結婚をしたいと思い

初めて続いている桔平との未来を信じて

麻梨子と背中の後押しを兼ねて

当たると評判の占いの館に行ってみたのに…






「前世って何よ…

 ホントかどうかも分かんないし…

 だいたい記憶もないのに

 あんな事言われたってしょうがないじゃないッ!

 何が前世からの縁よ……フンッ!!」






そう言って目の前にある

ショットグラスを掴みグッと飲み干して

ドンッとテーブルに置いて

「だいたいねぇ…」と

麻梨子にあの占い師は胡散臭いと

話していると麻梨子はウンウンと頷きながら

「所詮は占いなんだから」と

私の背中を摩っているけど

目線は麻梨子の横にあるスマホに

向けられていて23時を過ぎた今

明日からまた仕事も始まるし

そろそろ帰りたい事も分かっていた…





( ・・・・だけど…帰りたくない… )





ランチが終わった後も

ダラダラと買う予定もない

アパレルショップを梯子して歩き

「浮気なんてしてッ!」と

屋台で焼酎とビールを飲みながら

見苦しく、くだをまいて…




電車から降りた後も

桔平のいるあの部屋に帰りたくない私は

麻梨子を付き合わせて

日曜日も開いているショットバーへと入り

もう3時間近く…

今度は桔平にではなく

あんな事を言った占い師に

文句を言いながら飲んでいた…





マリコ「占いを全部信じろとは言わないけど…

   怪しい所があるのは事実なんでしょ?」






「・・・・繁忙期だし…」






あたしの言葉に「そっか…」とだけ呟いて

海外アーティストのライブ映像が流れている

大きな液晶画面に顔を向けている麻梨子に

付き合わせて悪いなと感じていると






マリコ「・・・パッと別れて…

   今度は運命の相手が何処にいるのか

   また別の占い師にみてもらったら?」





「・・・運命の…相手がどこにいるか…」





麻梨子の提案を口にしながら

頭の中で理解していき

「だよね!!」とテーブルをバンッと叩いて

麻梨子に体を向けて「ありがとー」と

言いながら桔平からの連絡が見たくなく

バックにしまったままのスマホを取り出して

運命の相手を探せる占い師を探していると





( ・・・・!? )





マスターが私たちの

カウンターテーブルの前に立ったのが分かり

騒ぎ過ぎたかなと口に手を当てて

「すみません」と顔を上げると

マスターは紫色の綺麗な…

大人の雰囲気を漂わせたカクテルをスッと

私の前に差し出してきて

右手を少し上げて麻梨子側の奥の席を

揃えた指先で差しながら

「あちらのお客様からです」と言い…


   



マスターの言う〝あちらのお客様〟を

確認しようと上体をテーブル側に寄せて

顔を向けると…





「・・・・ぁっ… 」





右端の奥から2番目の席に座っている

サラッとした黒髪のお兄さんが

頬杖をついて…笑ってコッチを見ていた…





マリコ「・・・ぇっ…いや…」





顔を向けている麻梨子は

テーブル下で私の右足をバシバシと

叩きながら「ネッ!」と

興奮するように顔をコッチに向けてきて

麻梨子の言いたい事は分かったし

私の胸もだいぶ激しい音を奏でている





( ・・・カッ…カッコイイ… )





笑ったまま

今も私を見ているお兄さんは…

スッキリと釣り上がった目をしていて

同い年のクリクリとした目をしている

桔平と比べると明らかに

大人の雰囲気を漂わせていて

「ふっ…」と小さいく笑った後に

どうぞと言うかの様に手をスッと上げて

まだ…コッチを見ていた…





( ・・・なっ…ナンパかな…でも… )





コッチは二人だし…

お兄さんはどう見ても

一人で飲んでるみたいだし…




人数も合わないナンパなんて

普通ならしない…






( ナンパじゃないなら… )





マリコ「ねっ!ねっ!夢乃狙いだよね?笑」





このお店に一人で飲んでいる

女性は左奥の席に一人いるし

一夜の遊びを希望なら間違いなく

そっちを狙うはずで…






マリコ「桔平君の変な前世の糸が解けて

  やっとホントの運命の相手が現れたんじゃない?」





「変な前世の糸?」





マリコ「占い師が言ってたじゃん!

   その変な糸のせいで

  今まで長続きしなかったんじゃないの?」






麻梨子の言葉に「えっ!」と

顔を向けると「絶対そうだよ」と

また右足をバシバシと叩きながら

「呪いが解けたんだよ」と

ハイテンションな麻梨子に

私も…そうなのかもしれないと思った…






高校生から桔平と出会うまでの間の7年間…

付き合う相手、付き合う相手が

何故か皆んな3ヶ月という壁を越えなくて

大体1ヶ月半を平均に別れていた…





( 桔平の魂のせいだったんだッ! )





今日の朝までは

もうすぐ結婚か…なんて

「言ってらっしゃい」と玄関で手を振っていた

愛しかったはずの顔も今じゃ憎たらしく感じ





さっきまでインチキ占い師だと言っていた

あのオバさんには

感謝のハグをしたくなっていた…






マリコ「あたし…お邪魔だよね?笑

   先に帰るからカクテルのお礼を言いに行ったら」






「えっ!?」と言いつつも

出来た親友だよと内心浮かれながら

髪を手櫛でさり気なく整え出し

「マスターチェックで!」と言って

ニヤニヤとしている麻梨子の

左足を「ありがとう」と優しい数回タップして

荷物を手に持つ麻梨子に

「また連絡する」と笑って見送り





綺麗な紫色のカクテルを手に

右端のお兄さんへと近づいて行った












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