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 四年の月日が流れた。あの事件で最終的に見つかった遺体は七人ほどである。タナラ村に住む男性タイロン・シモンズに賞金稼ぎの集団男性六人だった。タナラ村付近の森では、タイロン・シモンズを含め賞金稼ぎの三人が銃殺されており、さらに焼死体が二人ほど発見された。タイロン・シモンズの住居である一軒家の近くでは、身体はほとんど無傷、頭部だけを失った二人の遺体が発見された。

 タイロン・シモンズとタイラー・マイエと共に暮らしていたとされる少女エマについてだが、「死んだ」とされている。

 遺体は見つからなかった。血痕だけが残されている。悲しいことだが、おそらく死食鬼が森にいたのだろうと推測される。事件以来、タナラ村でその姿を見たものはいない。

 同時期に、テルベラノ王国に一人の魔法使いが誕生する。




「坊主」帽子、白髪交じりの髪の毛、豊かな髭を生やした四十代ぐらいの男だった。彼は器用に煙草を口に咥えながらそう言うと、白い煙漂わせるそれを指で挟んで、その片手を上げてみせる。「坊主も同じ列車だったか。俺も同じだ」

 タイラーは俯いていた顔を上げた。さきほど街で出会った彼を覚えている。しかし、たいした返事はしなかった。「覚えている」と、わかるような素振りをしただけである。

「ひとりでどこにいくんだ」

 タイラーは片手に手紙を持っていた。ふたたび俯くと、折り目のついた紙を一目する。そこには『騎士団』の文字が書かれている。十四の誕生日、祝いの言葉が綴られていた。

「首都に用があって」タイラーは端的に答える。

「首都に? へえ、首都か。それなら俺のほうが先に降りることになるな。長い道のりだ」

 タイラーは手紙に目をやり、そのあと折り目に沿ってたたむと、それを茶色い封筒に戻す。服のポケットにしまった。足元に置いてあった大型の鞄を持つと、もう片方の手で別のポケットから首飾りを取り出す。

「それで、荷物は全部か? ずいぶんと少ないように見えるが」

 大事な首飾りだ。彼は真紅色の宝石を握り締める。

「大丈夫だ。これでぜんぶ。忘れたものはないと思う」

 彼は国が所有する数少ない魔術師として、この国で生きていく。若いだろう。されど、国中を回り、自身に与えられた仕事を熟していく。彼は学んできた。いまだ行方不明の両親のことも忘れず。指名手配の。

 手始めに、彼女に会うべきか。






 *****



 彼はジュナ(エマリンの母)の手によって延命させられ魔法使いとなった。そしてその結果、「許さない」とまで言ったテルベラノ王国の為に働くこととなった。

 言葉に関しては、幼さもありそのとき冷静な判断力を失って出た言葉ではある。だが、現実を直視してからもそうで、悲しみそのものは消えないだろう。多くを失った。

 起きた出来事を、彼はずっと忘れることはないだろう。

 つまり、彼はそのなかで事件後といえば、「父母共に魔術師」「もう一人の生みの親、赤森の魔女」「小さな魔法使い」として首都へと連れていかれたわけだが。

 働いているということは、彼は時間を掛けて向き合ったわけだ。

 王立騎士団と出会うことにより、騎士団とはまた別の魔術師の集団(魔術師会)に加わる道を選んだ。

 彼は一人にはならなかった。


「本気で言ってるんですか? このままでは、彼は誰一人、人を信じることができなくなります」

「悲しいことがいっぱいあったんだ。これからは良いことが待っている。はずだ」


 エマリンの母にとっては都合の良い状況にはなった。


 仕事中、タイラーは赤毛の女と出会う。エマに似た赤毛だ。彼よりも年上の女だ。魔法を使う、所属不明の謎の女だ。

 彼女も両親を探しているとか。

 とはいえ、それはまた別のお話。


 これは――その日、テルベラノ王国に一人の魔法使いが生まれた。そういうお話。



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