第3話 暗雲

よせばいいのに、また酒を手に取り路上で狼狽する。

もはやそんな自戒すら頭にかすめることもなくなってきた頃、深夜0時の空に霧のような雨が降り始めた。

朝霧和夫は困窮していた。

かの日雇いの仕事を最後に行ったのは3日前。

手持ちの金が安酒に消えながら、人寂しさから繁華街の路上で人込みに身を寄せるのが和夫の常だった。

風俗のキャッチがせわしなく声をかける対象に目を配っている。

すっかり酔いのほてりが頬を照らし、明日の仕事こそは行こうという気持ちは露として消えつつあった。

思えば、人と人との関わりに親密と感じた最後はいつだったか。

生来の癇癪持ちは親譲り他ならないが、それにしても自分の人生に興味を持たない人がこれだけいるのはなぜなのか?

終電と霧雨にはやしたてられ、慌ただしく二本足で過ぎ去る様々な人生の外面を見る。

目と目と目。

路上で酒を食らう自分と目を合わせるものは少ない。

つれそう男と女を見ても何も感情を感じない日々が訪れたのはいつだったか。

そんなことを考える時点でまだうらやしく思う気持ちがまったく消えているわけではないだろう。

しかし、自分に期待することがなくなったのはいつからだろう。

自分には友も、女も、親族もいない。

手に取る酒とどちらを選べと言われたら酒を選ぶだろう。

結局無いものねだり、いたらいたでわずらわしく思うのだからこその今なのだ。

数滴の残りの酒をねぶり、帰路につくかと考える。

もう明日の飯を買う金もない。

毎日葛藤している仕事へ行くかどうかの決断は、有無をいわさず下された。

汗臭いシャツの裾で鼻と額を拭うと、彼は立ち上がった。

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