第19話

 

 聞かせて貰ったから、話さなければならない。そう言う理由が無いと、自分からは出来ない情けない女が私だ。


 紫藤紅葉は、口火を切った。


 何てことは無い。

 馬鹿が、馬鹿な事を言うだけだ。

 思った事を口にする。

 恥と思うべき過去を晒し、私自身の馬鹿な部分を丸出しにする。

 言いたい事は、要約すれば一つだけ。

 馬鹿には複雑な事は分からない。

 なんだってシンプルでなければならない。

 つまりは、紫藤紅葉は馬鹿な女だと言う事だ。

 馬鹿みたいな女だと言う事だ。

 馬鹿みたいに、一つの事だけを大事に思う女なのだ。

 一つだけ大事に出来るなら、それで満足する女なのだ。

 結局、藍川紫苑が好きで仕方ないだけの女なのだ。

『紫』を継げない衝撃も、存在意義の混迷も、どんな苦悩も困難も全部、藍川紫苑が傍にいてくれるなら、どうでも良くなる。なったのです。

 紫苑に褒めて貰うための裁縫だって、知識が足りない。発想が貧しい。技術もまだまだ。

 自分一人で、勝手に辛いと思ってしまう。けれどもそれだって、紫苑の一言で一時忘れる事が出来てしまう。

 まだまだこれから。と発奮する事さえ出来てしまう。

 私の『今』は全て、紫苑に貰って、紫苑に注いで、それで満足。

 その満足を、失う事だけが恐ろしい。

 馬鹿みたい?

 馬鹿ですが?

 紫藤紅葉は馬鹿な女なのです。


 そんな話を、私はした。


「うそつかんでよ」


 紫苑は、私を睨みながら言った。

 涙が、今にも溢れそうな表情だった。

 私には、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。

 私は馬鹿なので、何か間違ってしまったらしい事は分かったけれど。

 何を間違えたのかは、さっぱりわからなかった。

 けれど、紫苑の関西弁が懐かしくて、ちょっとだけ和みました。

 今、可愛いと言ったら、流石に怒られると思ったので、自重しました。褒めても良いよ?

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