第17話


 無理じゃない。


 なんて、良く言ったものだ。

 よく、言えたものだ。

 自分は、出来なかった癖に、他人には言う。

 馬鹿みたい。馬鹿でした。

 でも、そうだ。

 私は、独りでは出来なかったけれど、紫苑に頑張れって言ってもらえた気がしたから、頑張れた。

 だからじゃないけれど、ずっと、なんでかな、って思ってた。

 紫苑のご両親が、途中で頑張れって言えなくなったのは、なんでかなって。

 ずっと、よく分からなかった。

 けど、いざ、頑張れって、言おうとすると。

 嫌だね。

 だって、紫苑辛そうだもん。

 苦しそうだもん。

 泣きそうな顔するんだもん。

 怖いよ。

 私が頑張れって言ったら。

 きっと、紫苑は頑張れる。

 辛いのも、苦しいのも、泣きたいのも、全部抱えて我慢して。

 やれちゃうんだ。

 私が頑張れって言ったせいで、紫苑が辛い思いを耐えなきゃいけなくなるのは、嫌だ。

 泣き顔より、笑った顔の方が好きだもの。

 当たり前の事だった。

 無責任に、ずっと応援すれば良かったのに、なんて、内心で責める様な事をして、紫苑のご両親には、謝りたい。

 人の応援をすると言うのは、怖い事なんだと、初めて知った。

 知ったから、怖いから、じゃあ、やめるのか。

 やめません。

 やめられません。

 私は馬鹿だから。

 こうと決めたら、こうなのです。


「紫苑はこれからステージに上がって、ミスコンで優勝する」


 もう決まった事のように、私は言う。

 他の出場者を馬鹿にするつもりは微塵もない。

 それぞれ各々、可愛いのだろうし、美しいのだろうと思うけれど。

 ただ、個人的な事実として、最も優勝に相応しいのは藍川紫苑だ。と、私が勝手に信じている。

 誰しもに、それを知らしめたい。


「こわいの」


 紫苑が、絞り出すように吐いた言葉は、痛々しかった。

 言いたくなかった言葉なのだろうと分かる。


「いやなの」


 私に聞かれたくない言葉だったのだろうと分かる。

 私だってまだ、紫苑に出会う前の話を、していない。

 わざわざ言う事でもないと、今でも思うし、昔の恥を晒すみたいで、気が引ける。

 紫苑に、紫藤紅葉は、本当は、そんな程度の奴なのだ。と思われるのはすごく怖くて。

 嫌われるかもしれないと思うと、言える気がしない。


「なんで?」


 だから、聞きたい。

 聞く以上は、私も話す覚悟をするから、聞かせて欲しい。

 そんな理由を、誰かから貰わなければ、私は頑張れない馬鹿だから。


「-----」


 藍川紫苑は口を開く。

 私と違って強い子だって、私とは違う、自分で頑張れる人なんだって、私は知ってた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る