第3話

 

 綿入り半纏を貰って以降。

 紅葉は頻繁に、わたし用に、服を仕立てた。

 早い時は週一で、どれほど時間がかかっても、月に一つは私に、売り物に出来そうな服を仕立てた。

 部屋着はもちろん、外出用にも使える様な洒落た服も、沢山だ。

 中学進学以降は、家に泊まることも多いのだし、と紫藤家の皆様から説得され、紫藤邸の一室を貸して頂いているのだけれど、中学卒業を目前に控えた時期などには、収納スペースの半分以上は、紅葉が仕立てた服で埋まっていた。

 なぜか。

 私が服を買いに行こうと紅葉を誘うと、紅葉はその誘いに乗るのだけれど、いざ私が気に入った服を見繕って紅葉に意見を求めると決まって、『それなら作れる』と紅葉がへそを曲げるからである。

 私が衣服で店舗買い出来るものは、紅葉が作れると自信を持って言えないような複雑な造りの物か、下着くらいのものである。

 中学時代の私たちが服を買いに行くと言うのは大抵。私が気に入った服と似た布を買いに行く時間なのだった。

 部屋着、外出着、寝間着、四季の外套すらも。私の持つ服の大半が紅葉のお手製で一揃いする方が、高校入学よりも早かった。

 中学二年の冬。冬用の革手袋などに一目ぼれした時など、紅葉は『作った事は無いけど、たぶん作れるで』なんて言い出して、流石に革製品は無理だろうと思って、何とか仕立てる算段を建てようと粘る紅葉を説得し、その手袋自体もなかなかのお値段だったから諦め、紅葉にも諦めさせたのだけれど。

 結局、三年の冬までに紅葉は、わざわざバイトまでして変な形のレザークラフトミシンを買って、革手袋も私の知らぬ間に仕立てた。

『これなら、デニムも余裕やん』そのように、にやにや嬉しそうに言う紅葉は、ちょっと変態臭くて怖かった事をよく覚えている。

 その内に、下着すら『作れるし、作るし』とか言い出さないか、不安に思ったものである。

 紅葉は、一体どこを目指して、どこまで行ってしまうのか。そう思ったのだった。


 しかし実際の所。

 紅葉が作る物の完成度は高いのだ。

 プロの職人から見たら拙い所もあるのかもしれないが、私の様な素人が見ても、悪い所など見つけられないような出来栄えなのだ。

 手作りゆえに、Tシャツなどでも襟首のタグも無く、首がむずむずする事から解放されたし、服を買うより、生地を買った方が安いのは間違いが無い。もともと気に入った服そっくりに仕上げてくれるから、何の文句も湧かない。

 申し訳ないのは、紅葉が私の服を仕立てるために沢山の時間がかかってしまう事だけれど、その事を理由に遠慮すると言ってみても、『私の趣味を奪うんか』なんて言われては、じゃあお金払う。くらいしか、私の言える言葉などないのである。

 結局紅葉は、『布代は紫苑が払っているんやし、受け取れんわ』なんて言って、手間賃すら受け取ろうともしない。

 私ばっかり良い思いをしている。

 そんな気がして、まるで対等でない感じがして。

 だって明らかに、自分用よりも私用に仕立てている服の数の方が多いのだ。

 それは、どこか間違っているような気がした。

 だからつい。

 じゃあ私に何かして欲しい事は無いのか。なんて事を言ったのだ。


「じゃあ、モデルになって。部屋にマネキン置く場所ないし」


 紅葉は、私の着たいと思った服だけでなく、私に着せたいと思った服も、自分でこっそり作っている。と聞かされた。

 意味は分からなかったけれど、即断で断れるほど、私は図々しくなかった。


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