木箱
茶飲用 急須
木箱
姉が上京して3ヶ月。
姉っ子だった僕にもとうとう彼女が。
彼女と言っても幼馴染で姉と一緒に遊んだ仲。今更遠慮もないので部屋の大掃除を手伝ってもらってる。渋い返事をしてたけど、サボり癖がある僕には誰かの助けが必要だ。
大掃除も終盤に差し掛かり、押入れの整理に取り掛かった。押入れは姉のもので溢れていた。
それもそのはず、この部屋は姉から譲り受けていて、親に大掃除を命じられなければ触ることなんかない。だって面倒じゃないか。
それに姉っ子の僕としては、まだ姉と暮らしてる気がして何となく嬉しい。
シ、シスコンじゃないぞ!
ちゃんと離れて暮らしてるんだから!
まあそういうわけで、姉離れの意味も込めて大掃除に手を付けたわけだけど、やっぱり押入れが一番の鬼門。カバン1つで上京した姉が残した物の数は素晴らしく、どう処理しようか悩んでしまう程だ。
怖い顔をしてる彼女をなんとかなだめながら部屋に物を広げていると、何か見覚えのない木箱が出てきた。
「なんだこれ?」
その木箱は異様に重く、引っ張り出すのに苦労した。なんせ彼女は母の料理を手伝ってくるとかで、台所へ行ってしまったから。確かにお昼も近いししょうがない。
なんとか取り出した木箱は、何の変哲もないまさに木箱。一つだけ違和感を挙げるのなら、何か札のようなものが貼られていた。
その札には姉の名前がフルネームで書いてあった。変なの。自分の物に自分のフルネームって(笑)
姉の幼い頃のものだろうか。姉にも可愛い時期があったのだ。まあ、今も可愛いんだけど。
何か懐かしいものを感じたぼくは、早速木箱を空けてみた。中身は…
「塩?」
塩だ。
僕も多少料理をするから分かる。
ビニール袋に包まれ、木箱いっぱいに詰まっているのはおそらく、塩だ。
なんだろう?木箱に塩?
漬物…なんか漬ける質じゃないし、、
そもそも木箱でそんな事しないわな。
んー…うん、気になる!
気になる時は確かめるに限る!
ということで早速僕は
その塩の詰まった袋に手をかけた。
「それ、どうしたの?」
うおっ?!
び、びっくりした。
後ろにはいつの間にか彼女の姿。
どうやらご飯が出来たらしい。
料理の格好のまま、僕を呼びに来てくれたのだ。
何となく気味が悪くなった僕は、
木箱には手を付けないままご飯を食べ、
その木箱は元あった押し入れの奥にしまい込んだ。
数日後、僕は姉に電話した。
わかったことは、
姉が行方不明だということ。
姉には連絡がつかず、両親も行方を知らず、住んでいるはずのアパートは他の誰かが住んでいた。
一ヶ月後、僕は彼女と別れた。
分からないことだらけ。
未だ姉は見つからない。
でも、それが原因では無い。
いや、原因なのか?
分からない。
分からない。
分からない。
ただ一つ感じたこと。
あの時の声。
あの時の表情。
あの時の声掛け。
あの時は気づかなかった。
でも、全てを考えた先に
一つの真実がある気がして。
僕は、彼女が怖くなった。
思い出すからだ。
あの札の文字を。
思い出すからだ。
あの時後ろにいた彼女の
手の先にある、鈍い光を。
未だ、箱の中身は確認出来ていない。
木箱 茶飲用 急須 @kyusisu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます