夢の落下。夢寝落下。夢に落下。夢な落下。

@ASSARIASAKI

起床

 目が覚める。

 とても怖い夢を見ていた気がするが、既にぼんやりと薄れてきている。

 背中は汗で濡れていて、顔は冷たい。

 体は少し震えている。

 内容は一体何だったか。

 確か……何かが……

「さっさと起きなさーい。」

 また恐ろしいことをなぜ思い出そうとしているのだろうか。

 早く起きて忘れてしまおう。

 朝から気分が上がらない。


 とは言うものの、学校には行かなければならない。

 日常生活は多少の事では止まれない。

 しかし、まだ少し眠い。

 朝日を浴びているが、一向に眠気は収まらない。

 今朝のパンはお昼まで持ってくれるだろうか。


「ちょっと何やってんの!」

 道行く知らない人に腕を引かれる。

 同時に目の前をトラックが通る。

 気が付けば、あと一歩で赤い横断歩道に飛び出しそうになっていた。

「すいません。ちょっと寝ぼけてたみたいで。」

 周りからの視線が痛い。

「自殺じゃないならいいんだけど…ちゃんとしっかり立ってなさいよ。」

 信号が緑に変わる。

 道にいた人たちは一斉に歩き始めた。

 少し遅れて、また自分も進みだした。


「おい!大丈夫か!」

 後ろから怒鳴り声が聞こえる。

 周りを見ると、線路の上に倒れていた。

 慌てて黄色い線の内側まで這い上がる。

 引っ張り上げてくれた大人には感謝しなければならない。

「お前、いきなり線路に落ちるんだから焦ったぞ。」

「すいません。どうも意識が。」

「ここ駅なんだから、もっと気を付けて。」

 駅に電車が入ってくる。

 周りはいつもの日常に戻った。

 取り残されないように、電車に飛び乗った。


 扉が閉まる。

 見慣れた景色。

 狭い社内。

 それと……あれはなんだ。

 ドアに取り付けられた窓から、今なにか黒い影のようなものが

「おーい。朝だぞー。」

 あさ。

 違う、ここは。

「何言ってんだお前。朝なわけねーだろ。」

 学校だ。

「あ、え、いつの間に?」

「いつの間にって、お前まだ寝ぼけてんのか?」

 時計はもう12時。

「ああ、もう昼ご飯か。」

「そうそう。じゃ、さっさと食おうぜ。」

 お互いお弁当を取り出す。

 そういえばこいつの名前って

「おまえ、今日の弁当何?」

「普通の弁当。」

「なんだ普通かよ…って、お前の弁当なんでそんな崩れてんの。」

「そりゃあ…今日は朝から大変だったんだからな。」

「大変って、どんな。」

「……朝から怖い夢を見た。」

「しょーもな!どうせ転んでその弁当のありさまだな!」

「いやそれは…まあそうだった気がするな。」

 弁当を食べようと箸を持った時気付く。

「あれ、中身が。」

 無い。

「おまえ、もっときをつけろよ。きおくからぬけ

 落ちてるぜ。」

 目の前には、黒色の影のような何かがそっと背中を


「っは」

 風が吹く。

 周辺を見渡すことが出来る。

 そして後ろからは、

 影が。

 人型の黒い影のデカい小柄の髪のない

 ああ、わかった。

 夢だ。

 朝もまた見ていた。

 違う。

 これも夢かも。

 わかった。

 そして押した。

 そして落ちた。

 これは夢だ。

 また落ちてしまえば。

 来るな。

 寄るな。

 これは夢。

 夢だ。

 落ちさえすれば。

 落ちてしまえば。



「にしても、今どきの学生が屋上から飛び降り自殺ねえ。何がそんなに嫌だったのか。」

「僕らにはわからない世代の子供たちなんですよ。」

「わからないのとわかろうとしないのは違うだろ。」

「遺書もなし靴もそろえてない。まあ最近はそういう自殺文化もなくなってきてるんでしょう。」

「ま、そう解釈するしかないな。」

「しかし、本当にわからないのは」

「どうやって屋上に入ったか…」

「まあわかってますけどね。ドアを壊して侵入。」

「ただ、そんなこと女の子にできますかね。」

「わからん。」

「ですよねえ。……あ、電話だ。」

「なんだいきなり。急用でもできるのか。」

「…はい。はい。わかりました、伝えておきます。」

「なんだって?」

「追加の自殺です。横断歩道と、駅のホームで。」

「今日はやけに多いな。」

「どうしますか。」

「行くしかないだろう。」


「自殺ねぇ。せめていい夢くらい見てほしいもんだな。」

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