ダイエットの真相
窓から差し込む光で目を覚ますと、私はベッドの上で眠っていた。瞼を擦りながら起き上がると、ケイネスとアンの二人の姿が目に入る。
「良かった、目を覚ましたみたいだね」
「私は……なぜベッドに?」
「栄養失調で倒れたんだ」
無理なダイエットが限界を迎えたのだ。心配かけて申し訳ないと私が謝罪しようとするよりも前に、二人はその場で土下座した。
「あ、あの、ケイネス様、それにアンも。謝るのは私の方ですよ」
「いいや、謝るのは僕だ。君が倒れた原因はすべて僕にある!」
「いいえ、リーシャ様。悪いのは私です!」
「は、話を聞きますから。まずは頭を上げてください!」
ケイネスとアンの二人は申し訳なさそうな表情で立ち上がる。悪い予感が現実になったのではと、背中に冷たい汗が流れた。
「もしかして……二人は浮気していたの?」
「浮気?」
ケイネスたちはポカンとした表情で首を傾げる。最悪の予想は外れていたようだ。
「ケイネス様はリーシャ様一筋ですよ。私も尊敬している方の婚約者を奪ったりするような悪女ではありません」
「ならどうして謝ったの?」
「実は……私たちはリーシャ様をワザと太らせようとしていたのです」
「えっ⁉」
驚愕と共に疑問が湧く。童話なら美味しく食べるために魔女が子供を太らせることはある。だが現実は違う。私が太っても得する人なんていないからだ。
(まさかケイネス様はぽっちゃり系の女性が好みなのかしら)
だとすると合点が行くが、彼らの罪悪感に満ちた表情から推理は間違っている気がした。
「説明してもらえるかしら」
二人に答えを訊ねると、最初にアンが口を開く。
「リーシャ様の元には婚約後も縁談の手紙が届いていましたよね」
「しつこい手紙が何通も届いたわね。でも最近は減ったわよ……え、ま、まさか⁉」
「そのまさかです。リーシャ様への手紙が減った理由は、外見が変わってしまったからなのです」
婚約してから頻度は減ったが、それでも社交場に立つことはある。その時に私の太った姿を見た男たちは、私に興味をなくし、手紙を送るのを止めたのだ。
「他の男を私に近づかせないために、こんな馬鹿なことを?」
「すまない。僕が君に相応しい男だと自信を持てなくて……捨てられるのが怖かったんだ……」
女性なら誰もが虜になるような美しい容貌をしておきながら、ケイネスは幼い頃のコンプレックスが原因で、自分に自信を持てなかった。だからリーシャを誰にも渡さないために、高カロリーな食事を提供したのだ。
「アンはケイネス様に命じられたの?」
「いいえ、自分の意思です……私もリーシャ様と離れたくなかった。だからこそケイネス様と結ばれて欲しかったのです」
アンの謝罪を受け、むしろ私は嬉しいとさえ感じた。罪悪感を覚えてでも、私と一緒にいたいと願ってくれたのだ。恋人だけでなく、友人にも愛されていると実感する。
「あれ? でも私、ケイネス様が婚約関係を止めることを決意したと聞きましたよ」
私を繋ぎ止めておきたいなら、婚約破棄など考えないはずだ。ケイネスは朱色に染めた頬を掻きながら、疑問の答えを教えてくれる。
「婚約関係を止めて、君に正式な結婚を申し込もうとしたのさ」
「あ~そういう……」
婚約破棄は私の勘違いだったのだ。クスリと笑みが零れる。
「僕に償えることなら何でもする。だから、これからも一緒にいて欲しい」
「私からもお願いします」
ケイネスたちは改めて頭を下げる。だが怒りはない。結局、彼らのしたことは、私に美味しいご飯をご馳走してくれただけだから。
私は二人の謝罪を受け入れたと示すために、両手でギュッと抱きしめる。
「二人共、私の宝物よ。これからもずっと一緒にいてね♪」
私は二人をさらに抱き寄せる。幸せ太りしそうなほどの幸福を感じながら、彼らと生涯を共にすることを誓うのだった。
【短編】婚約破棄の危機に怯える王女様。痩せて見返すことを決意する 上下左右 @zyougesayuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます