第26話 私の呪

「そっか……だけど魔法は――」

「レイちゃん、一旦許してあげたらいいんじゃないの? 魔法の怖さはおいおい教えてあげるとして」


 突然軽い口調で割り込んできたのは権藤だった。


「不満そうだな」

「いや、もう、いいけど」

「けど、ってなんだよ。ちゃんと言わないと男はわかんないんだよ」


 言い方にかちんときて、そっぽを向いてしまう。


「別に」

「なんだよ、そういうとこ完全に女になってんじゃん」

「完全に女に?」


 不思議そうに西岡が口の中でぼそりと呟く。その言葉を聞いて、権藤はしまったと舌打ちする。


「ほら結局、魔法の副作用の話になってきたし!」

「そ、そう怒るなよ、悪かったって」


 権藤が手の平を振りながら、愛想笑いをする。その情けなそうな顔をみて溜飲を下げる。


――まあいいか。魔法を使う上で絶対に説明しないといけないところだし。


 私は一呼吸おいて、西岡に向き直る。


「魔法には、呪という副作用がある」

「呪……副作用、ですか?」

「そう。これは人によって違うんだけど、必ず存在する。これが魔法を使う上で厄介なんだ。人によって軽度から重度あるんだけどね。これは魔法を使うと必ず発生し、蓄積されてくる」


 いまいち掴めていない様子の西岡は、副作用と口の中で繰り返すと、


「例えば、熱が出るとかですか?」

「まあ、そういう人もいるかもね。これから魔導官として共にする可能性もあるんだし、先に言っておくんだけど、私の場合は」


 何度も口にしているが、この話は今も抵抗がある。

 私は息を吐く。


「性別が変わった」


「え?」


 意味が分からなかったらしく西岡は聞き直した。


「だから、昔、男だったんだよ、私は、というかオレは」


 何度も言わせないで欲しい。


「え」


 しばし沈黙。


「ええええーっ?」


 課内に驚きの声が響き渡る。

 西岡は反射的にこちらの胸のあたりをみたのがわかった。


「じょ、冗談ですよね……?」


 私は胸元を腕で隠しながら、かぶりを振り、スマホで昔の自分の写真を見せる。


「冗談で言うかよ、この野球帽をかぶってるのがオレな」

「……子供過ぎてボーイッシュな女の子に見えます」

「これ証拠にならねえよ、何回も言ってるだろ」


 西岡と権藤にいわれて、ムッとする。


「仕方ないだろ、成長期前に魔法感染したんだから」

「せ、成長期前っていつですか?」

「うーん、九歳のときに感染したから六年前かな? まあ、ともかく呪は常識では考えれない作用をすることがある。君も魔法を使うなら覚悟が必要なんだ。君にその覚悟はあるのか?」

「僕も女の子になるんですかね?」

「いや、そういうわけじゃない。人によって何が起きるかわからん。例えば、そうだな。昔見た事例では、筋肉肥大というのがあった。どんどん筋肉が大きくなるんだ」


 話に入ってきた権藤がそう言った。

 思わず彼の顔を見る。


「それはいいですね」


 権藤のことをまだ怖がっているらしく、西岡は少し引き気味にいう。


「そうでもないよ。最終的に彼は肥大しすぎた自分の筋肉で窒息したんだ」


 青ざめる西岡の顔を見ながら畳みかける。


「いっただろ、魔法は決して人生を良いように変えるためのものじゃない。悪くなることだってある。そっちのほうが多いかもしれない」


 西岡はしばらく考えるそぶりをすると、


「……僕の呪でしたっけ? それが何なのか調べることはできるんですか?」

「……それには観察するしかない。魔法を使ったとき想定外の効果が何か起きるはずなんだ。それは魔法をかけた相手にも、自分にも必ず起きる。効果の大きさは違うけれどね。大抵は術師に跳ね返る呪のほうが大きい」

「なら、まず自分の呪が何なのか知りたいです。それから考えたい」


 私は自分の思った方向になったことに少々心を痛めた。

 彼の呪が、自分の考えている通りなのか、知りたいのは自分たちもなのだ。


「わかった。なら様子見ということにしておこう」

「ち、ちなみに黒木さんの呪というのは性別が変わるというものなんですか?」

「いや……私の呪は、逆流。物事の流れを逆にするんだ」

「それで性別が逆流したと」


 頷く。


「そうだな……今、私は成長期で女に進んでる。けれどこのまま使い続ければ、何が起きるかわからないんだ。もしかしたら、また男に戻るかもしれないし、年齢が若くなるかも。いずれにせよ、長く生きられないとおもってるよ」


 絶句している西岡に私は微笑んだ。


「とにかく、君が魔導官を本気でやるなら、条件がある」

「じょ、条件?」

「そう。それは――」


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