第27話 黒木さんの課題
魔導官候補として認められてからは待遇もよくなり、犯罪者から保護された少年扱いへと格上げされた。
魔法のことを公開したくない警察は両親へは、事件に関して重要な情報を握っており保護していたと説明を実施していた。当然学校には、何も知らされていないそうだ。そのことに安堵した。
「よく考えたら警察で一日中拘束されてたんだもんなあ」
さすがに体がぐったりしている。ほとんど座っていただけとはいえ、慣れない状況に緊張しっぱなしだったのだから。
逮捕が金曜日夜でよかった。土曜日はほぼ一日拘束され、日曜日はほぼ睡眠で終わってしまった。今は月曜日の明け方だ。
変な時間に寝てしまい、夜中に起きた後ベッドの上で悶々と考えているうちに夜が明けてしまったのだ。
――あのわけのわからないUSBメモリも突き刺さっていたおかげで、体の力も入らなかったしなあ。
しかし次第に効果が薄くなっていき、やがて取り外された。
聞いてみると、あくまで体を束縛する魔法をかけているだけで、永続するようなものではなく、徐々に効果は薄れてしまう。ということだった。
何型の魔法なんだろうな。
道具型?
いろいろなことが一気に起きたせいで頭の整理ができていない。
呪。
――魔法にリスクがあることはネットの噂では聞いていたけど、けっこうやばいじゃないか。
魔法を使えば使うほど、呪とやらの影響を受けるらしい。
人によって影響の大小はあるそうだが、生死に影響するほど強い呪もあるということだ。
今のところ体に変調は感じない。自分の呪は一体なんなのか。全く想像もつかない。
それに。
「まさか黒木さんが男だなんて」
衝撃的過ぎて信じられない。
今でも冗談にしか思えないくらいだ。
今はどう見ても女の子だ。顔立ちもさることながら、女性らしい線の柔らかさ、髪も細くて艶やかだし、肌も白くてすべすべしてて……。
――柔らかくていい匂いしたな……体温は熱くて。
金曜日彼女の体に密着してしまったことを思い出す。
「だめだ。こんなこと考えてたら」
妄想に入ってしまい、頭を振る。
「まずは自分のことを考えないと。黒木さんの課題をクリアしないといけない」
魔法の使用を認めてもらうためには、魔導官とならなければならない。
そうでないと、せっかく手に入れた魔法の力をなくすといわれた。
首元にあるUSB端子に触れる。
黒木さんは、この端子のことを呪痕と呼んでいた。
いまのうちなら、手術でこの端子を取り除くことができるらしい。呪が体を変えてしまったら、呪痕を取り除いたとしても、変わった部分は戻らない。とも説明していた。
戻るなら今だと。
だが、僕はそれを拒否した。
――絶対に変えてやるんだ。
今までの負け人生を変えて、勝つんだ。自分でも意外なほど決意は固かった。今まで、逆境にすぐめげてしまって、どうせ無理だと諦めていたのに。得意なプログラミングを生かせるからだろうか。
さて、黒木さんから言われた課題は次の通り。
「私が有効であると判断するまで魔法を私の前で使うこと。ただし周囲にバレてはいけない」
これだけだ。
しかしこれが難しい。
特に魔導円型は魔導円を書くという条件があるため、瞬発的な実行に弱い。スマホを使う手もあるのだが、なかなか厄介なのだ。この間の魔弾は、魔導円の方向へ魔法を放つという条件で作った。
同じ原理で、いきなり学校でスマホかざして、呪文を唱える。ことを想像する。
「……完全に痛いやつだよなあ」
顔を青ざめさせる。
今でもクラスから浮いているのに、こんなことをしたら良くて中二病だ。悪くて、ひどいいじめの対象になるかも。
――まあ、魔法で蹴散らせばいいのか。
最悪の選択肢としておこう。
次にタイミング。
いつ魔法を使うのか。
黒木さんに見せるためには授業中しかないが、教室の座学で魔法を使うという場面が想像できなかった。
難しい数学の方程式を解く魔法。
魔法のベースがプログラムなため、うまくやればできそうな気がする。
例えば、電卓のような魔法を作り、パラメータとして、計算式を入れてやるのだ。
「答えは、光の文字で出現する。とかね」
なんかかっこよさそうだが、パラメータの入力は、口頭になる。魔導円は、あらかじめ登録する必要があるので、変更できないし、他の入力はあるのかもしれないが、わからない。
――でもかっこよく魔法で回答するとかってかっこいい?
(この時僕は、周囲にバレてはいけない。という条件をすっかりわすれてしまっている)
そもそも現在朝四時だ。さすがに四時間やそこらでコーディングして、使うのは危険だろう。
魔法を使うだけで呪というペナルティがあるのなら、コンパイルエラーや、実装上のエラーがある場合は、いったいどんなペナルティがあるのだろうか?
「こわ」
どう考えても現実的なのは体育の授業しかないだろう。しかし通常は男子と女子は別開催だ。タイミングがほとんどない。とすると、教師がサボりたいときに不定期に行われるバスケの試合のタイミングだけだ。スマホはさすがに持って体育に参加できない。
「バスケで活躍する魔法っていってもな……どうやって書けばいいんだよ。スマホは持てないし、魔導円、手に書いとくか。でも手に絵を描いてたらどう見ても怪しいよな」
パソコンを起動すると、自分の首にケーブルを差しこみ、片方をパソコンへ。
グリモワールシステムの立ち上げを示すスプラッシュを見ながら、考え込むがまったくいいアイデアが思い浮かばない。
「ああああっ!」
僕は頭を抱えながら叫んだ。
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