第二章 警察庁魔導課
第18話 飛来する石
鋭利で、子猫くらいの石が突然空中に現れる。
その次の瞬間には、同僚の頭に突き刺さり、ぶっ倒れる。
先ほどまで一緒に談笑していた同僚が、眼前で脳漿をぶちまけて白い床を汚す。同僚の手にあったカップも割れて、中身のコーヒーが染みを作り、
「きゃああああああああああ」
総務の女性が叫んだことをきっかけにオフィス中が混乱した。
「どうした!」
「え!」
「な、何が、お前何かしたのか」
混乱するもの、泣き叫ぶもの、俺を疑うもの、血をみて吐き出すもの。
「わ、わかりま――」
とりあえず俺は何もわからないと立ち上がり、否定しようとした。皆の視線は、床に頭から血を流す同僚と、血塗れた石、そして俺へと視線が順に動いている。
完全に疑われてる。
焦った俺は、説明をしようとして――
その次の瞬間には同時的破壊音を聞いた。
ぱっと音の方向へ顔を向ける。
オフィスの窓が一斉に四散していた。映画のワンシーンのように窓ガラスが外から内へ膨らみ、無数のガラス片が飛び散る。
そこから弾丸のように無数の巨大な石が飛び出す。
先ほど叫んでいた総務女性の背中に、石がぶつかり、その衝撃で彼女は俺に倒れこんできた。口から大量のどろどろした血が吐き出されて、俺の服にかけられる。
「う、うえ。ちょ……」
冗談じゃない。なんでかけらなきゃいけないんだ。昨日届いたばかりのオーダースーツだぞ。
非難の声をあげながら、もがき、女性を引きはがすと、オフィスは地獄絵図になっていた。
◆
通報があり、捜査員が駆けつけると、室内はひどい有様だった。
割れたディスプレイ、ちかちかと点滅する蛍光灯、砕けたホワイトボードが突き刺さる机。しかしそんなことよりも目立つのは、血を流して苦悶の声をあげている人間たちだ。
スーツを着て普通に仕事をしていたいわゆるサラリーマン、OLたちがめちゃくちゃな状態となっている。
「こりゃ、ひでえな」
思わずマスクをしている口元をさらに手で押さえてしまう。
血の海とはまさにこのことだろう。血液、脳漿、髄液、体液、吐しゃ物、耳、歯、目玉。人間を構成するパーツが海の中に浮かんでいる様子はまさに地獄だ。
捜査員は奥にいる通報者とみられる比較的軽傷の男に声をかけた。
「な、なにがあった」
メガネをかけた男が立ち上がる。折れたノートパソコンを手にしながら。
「石、です」
男は顔面を蒼白にしながらその半分にへし折れているノートパソコンをこちらに見せつける。
「盾にしてました」
よくわからず眉根を寄せる。すると血の海のあちこちに拳大の石が転がっていることに気づいた。
「どういうことだ。この石でやられたっていうのか」
「……はい。そこから投げつけられて……そんなレベルじゃないんですが」
と粉砕された窓を指さした。捜査員は、細かく割れたガラス破片が散らばる床を歩き、ゆらゆらと風で揺れるカーテンを開ける。
窓はほぼ全壊しており、寒気を覚えるくらいの景色が見えた。ここは三十階なのだ。
捜査員は周囲の景色をみて、かっとなり、メガネの男に恫喝するようにいう。
「ふざけるな、どこから投げたっていうんだ」
が、男は肩をすくめるばかりだった。
外を見た捜査員の視界には、はるかに低いビルしか見えなかったからだ。
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