第16話 呪縛

 圧のある冷徹な低い声に体がまるで石のように動けなくなる。

 本能的に、問答無用に逆らってはダメだという意識が働く。

 やばい。そう思った瞬間、


「!」


 突然の衝撃が首元を襲う。

 冗談抜きで力が入らなくなってしまっていた。体が支えられくなり、その場で崩れる。手も足もぴくぴくとかすかに動くだけだ。しかし意識はある。自分の体でなくなってしまったかのように、手足が自由に動かせない。


 しかし、なんとか目だけで自分の首元をみやると、銀色のUSBメモリがそこに突き刺さっていた。


「動こうとするなよ、怪我するぜ。っていっても動けねえだろけど」


 そう言いながら、いかつい大人の男が現れる。先ほどの声の主だろう。全身黒づくめのスーツを着た男だ。短髪で長身、筋肉質で強そうだ。

 魔法ならなんとかなるとも思ったが、両手ともほとんど力が入らない。魔導円が書けないし、スマホも取り出せない。


――何者なんだ、こいつは。


 ぞっとする。そして弱っている彼女のことを思い出し、


「く、ろい、あ、ん!。に、げて」


 呂律の回らぬ舌で、そう叫んだ。


「てめえ、しゃべれるのか」


 男は驚いた声を出すと、僕の口元を布か何かで押さえつけられる。もはや手も足はおろか声も出ない。

 そんな僕の様子を見ると、その男は一息つき、誰かに優しい声で言った。


「レイ、大丈夫か」

「オーケー」


 彼女は気軽そうに、だが弱弱しく手を振る。

 知り合い。

 自分が放った言葉がとんだ勘違いで、恥ずかしくなる。なんと間の悪い。この男は黒木さんが呼んだということだろう。


「あ、あの」


 ふらふらと僕が立ち上がろうとすると、より強い力が掛けられ、床にねじ伏せられた。


「動くなっていってるだろ、クソガキが!」


 強烈な痛みと圧迫。純粋な暴力に恐怖する。一体なんなんだ、こいつは。


――ってことは黒木さんも仲間ということか。


 信じられない思いで、目の前にいる同級生の少女を見やる。彼女は白い顔をいつもよりさらに白くして、こちらを見つめている。


「冗談じゃないぜ、このガキ。呪縛かけてんだぞ」


 よくわからないことをいう。呪縛?なんのことなのか?

 ヤクザか。もしかして。

 そんなことを考えていると唐突に告げられた。


「西岡君、いう通りにして。私たちは警察よ」


 彼女は冷たい視線で見下ろしながら、そういった。

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