第2話 魔法統合環境グリモワール 下
「まさか」
首に開けられたUSBの差込口。何に使うというのか。
いや、決まっている。
ここにケーブルを差し込むのだ。
そう考えるといてもたってもいらず、起き上がるとスマートフォンに差し込んだUSBケーブルの逆側を電源アダプタから引き抜くとそれを手に持った。ごくりと唾を飲み込む。
そして、一思いに自分の首にUSBを突き刺した。
すると、自分の頭の中にメッセージが流れ込むのがわかった。
『この接続デバイスの電池残量が少なくなっています』
正解だ。
やはりこの首の差込口の使い方は、USB接続することなんだ。
興奮で眠気など忘れて、パソコンを立ち上げるとそのケーブルを接続した。
『接続しています……認証しています』
などという声が頭の中に響く。
『認証に成功しました』
その声とともにパソコンの画面上にアプリケーションが起動した。
ようこそ。魔法開発統合環境グルモワールへ。
というスプラッシュが立ち上がり、読み込み処理が行われる。
本アプリケーションは魔法を手軽に開発できる総合環境です。魔法初心者でも簡易な選択で簡単に魔法を開発することが可能です。
従来のようなコーディング不要。とも記載がされている。
「まじか。つまりこれはノーコードのプログラムみたいなものってことか」
と独りごつ。
プログラミングは得意だ。
これはまさに自分にもってこいなんじゃないのか。これこそ、自分が得意な世界を人に見せるためのツールなんじゃないのか。全身を興奮が襲う。
とりあえず先に進める。
画面が完全に立ち上がると、様々な機能がメニューとして並んでいるのがわかる。
「す、すごい」
脳内をアドレナリンが駆け巡るのを感じながら、メニューを順番にみていく。機能名だけみても理解できないが、とてもわくわくしてくるのが自分でもわかる。
「なるほど、上級者機能ではコーディングできるんだな」
だが、まずはコツをつかむ必要がある。実際にソースコードを書いていくのは早い。
サンプルコードというものがあったので選択する。サンプルにはいくつか魔法のサンプルが掲載されていた。
マッチのような火を灯す魔法、物体を動かす魔法、水を凍らせる魔法、光を灯す魔法などファンタジーでお馴染みのものから、バッテリーを充電する魔法なんてものもある。
まず物体を動かす魔法を選択した。
すると対象をどのようにして決めるかという選択肢が再度表示する。
指さしたものを動かす、あらかじめ設定した魔導円が描かれたものを動かす、触れているものを動かすなどいくつかある。
ここでは指さしたものを選択するが、エラーになる。
「はあ?」
型が一致しません、
「マジで本物のプログラミングみたいな意味不明なエラーを出してくるな」
他の選択肢にも変更して色々試していく。触れている物を対象にする。
エラー。
文字を書いた物を対象にする。
エラー。
見たものを対象にする。
エラー。
魔導円を描いたものを対象にする。
成功。
「どういうこと?」
疑問点は多々あったが、とりあえず先に進めよう。プログラミングなんてものは、そういうものだ。理解が深まると、あとで意味が分かる。
次に、どんな魔導円にするのかという設定だ。この魔導円というのは、いわゆる魔法陣のことで複雑な文様で、描く時間が長い、大きいほど効果や消費魔力が下がるらしかった。とりあえず思いつかないので、単純な円を描いておく。
今度は、どれくらい動かすのか、という設定だ。
三センチといった固定設定もあるが、柔軟に自分の指を動かしただけ移動する。という設定を実施した。ここでは発動時間に応じて魔力を消費する。
最後に発動のトリガーを選択する。
一番オーソドックスなのは呪文のようだ。呪文を唱えると魔導円を描いた物体が動くということだ。他にも体の一部の動きで発動させることも可能なようだ。
わかりやすく呪文を選択し、呪文名は少し悩んで「動け」とした。あとでもっとカッコいいものに修正しよう。
最後に完了ボタンを押すとビルド中という表示が出て、成功となった。
「本当にプログラムそのものだな」
成功した魔法がケーブルを通して自分に流れてきたということだろう。
「??」
感覚は特にないが。
そう思った瞬間、どくん。と心臓が脈打つ音が聞こえた。
何かが入った。そう確信できる感覚。
すっかり眠気は吹っ飛んでいた。頭が冴え切っている。
試そうと自分の部屋を見まわし、床におちている漫画雑誌を見つけた。雑誌に魔導円、といってもただの円だが描く。
そして唱えた。
「動け」
その瞬間、指先に光が瞬いた。そして不思議な感覚が起きた。
まるで自分の腕が伸びて漫画雑誌に触れているような。そのまま指を動かすと絶対に手が届かない距離にある漫画雑誌が少し動いた。
「すごい」
現実味のない光景。だが静かに歓喜が沸き起こる。このままページをめくろうとするが指先だけしか繋がっていないので、雑誌の中に指を入れたようになるだけだ。四苦八苦しながらなんとか漫画雑誌を開くことに成功する。少しのことなのに、汗びっしょりだ。走ってきたかのように息も切れている。
集中が途切れると先ほどの不思議な感覚がなくなり、伸びた指が戻ってきていた。実際には指など伸びていないのだが。
改めて自分の指、手のひらを眺める。
何の変哲もない手だ。だが歓喜で震えていた。
本物の魔法を手に入れたんだ。いや現実に作用するプログラムか。どっちでもいい。
今度はこの力を使ってどうやって問題解決するかだ。具体的には、あいつ、村上翔にどんな嫌がらせをしてやるかだ。
みんなが幻滅するような行動をさせてやろう。
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