第5話 そして火蓋は落とされる

僕とネルがパーティーを組んで早一か月ほど経過した。

かれこれ依頼を結構こなしてきているが、特に目立ったミスや怪我もなく安定して依頼を達成できている。


「よし、今日も依頼をこなしていくわよ」


「了解です。今日は何の依頼をやりますか?」


「やっぱり討伐系の依頼がいいわね。報酬もいいし、何より練習にもなるわ」


「そういうと思いました。早速探しに行きましょうか」


この一か月で気づいたが、このお嬢様は結構な戦闘好きである。

そのため、この一か月でこなした依頼の多くは討伐系のクエストであった。

最初の方なのであまり危険なものはやらなかったので怪我などはなくしっかり戦えていたので良しとしよう。

しかし日常生活では大分頭がキレるようで、人前では優等生ぶっているのは凄いと思っている。


そんなことを思いながら、冒険者ギルドの重たいドアに力を入れ開ける。

中に入ると相変わらず冒険者らしい喧噪に一瞬で包まれる。

そんな冒険者たちは入ってきた僕たちには目もくれずずっと騒いでいるようだ。


「やっぱり、変わらずここは賑やかね。まあそれがいいところなんだけど」


「冒険者らしいですよね。僕もこの雰囲気は嫌いになれません」


そう他愛もない会話をしながら、入口の少し先にある掲示板へと向かう。

まだ昼過ぎということもあり、これから活動するという人も多いのだろう。

掲示板の前は多くの人で賑わっていた。


「僕が良さそうな依頼を何個か取ってきます。ネルさんはここで待っていてください」


「ええ、分かったわ。決して危険なものを選ぶんじゃないわよ」


「分かってますよ。じゃあ、行ってきます」


掲示板の前に行くと、やっぱり多くの人がいてあまり入り込めなさそうに見える。

しかし僕は、一瞬の隙を突いてするすると前に出て、少しの時間で掲示板の前へと辿り着いた。

人が多いせいか、左右から押されてしまうが力を入れて踏ん張り何とか耐える。


「これとこれ...それにこれも良さそうだな......すみません!失礼します!!」


そういって大きな声を出して、目を付けた依頼を数枚とる。

取った依頼は三枚。どれもネルの希望通り討伐系の依頼だ。

三枚の紙を簡単にまとめ、少し離れたところで待っているネルのところまで持っていこう。

そう思って、ネルの方へ向かおうとしていると何か騒ぎが起こっているようだ。

見ると、ネルの周りを三人の男が囲っているのだ。


「あなたたち、何をしているんですか?」


「ああ?見ての通り勧誘だよ。お前もそれこそなんなんだよ?」


僕が男たちのリーダー格に話しかけると、男は高圧的な態度で答える。


「僕ですか?僕は、この子のパーティーメンバーですよ?」


「あ?てめえがか?調子に乗るのも大概にしとけよ?」


そこまで言って男は手を大きく振り上げる。

僕が避けるかカウンターをするかを考えていると後ろから小さい、けれどよく響いた声がした。


「やめなさい」


「ひっ...!!」


その声の主は絡まれていた少女、ネルだった。

殺意が込められているかのような冷たい声に男たちは怯んだのか、逃げるように去っていった。


「ありがとうございます。助けてくれたんですね」


「パーティーメンバーを助けるのは当然のことよ。それにあなたも助けてくれたじゃない。その...嬉しかったわ、ありがとう」


その少女の横顔は少し赤くなっているように感じた。


「ところでネルさん、依頼持ってきましたよ。どれがいいですか?」


冒険者ギルドの横の方にあるスペースの一角を取り、三枚の紙を机の上に広げる。

するとネルは真ん中の紙を手に取った。


「このオーガの討伐依頼、良さそうね。これにしましょう」


ネルが取ったのはオーガの討伐依頼。

冒険者ギルドから少し離れたところの森の奥にある洞窟を住処としているオーガを討伐するというものだ。


「いいですね、早速準備をしましょうか」


「ええ!早く出発するわよ!!」


そう言って僕たちはポーションなどの道具を詰め込み、すぐに冒険者ギルドを出発した。


三十分ほど歩くと、目的地である洞窟についた。

中は暗く、晴れ間のはずなのに心なしか冷たさを感じてしまう。


「何故か心なしか寒く感じますね...」


「いや、その感覚は正しいわよ。一種の殺気みたいなものだから」


「へぇ...そうなんですね」


「つまり、ここにオーガがいるというのは間違いないわ。気を付けながら進みましょうか」


洞窟の中はやはり想像通りというべきか、薄暗かった。

こういう洞窟には結構魔物が住み着いたりすることも多いのだが、やけにもの静かな雰囲気が漂っている。

季節的にはまだ春だというのに、これだけ肌寒いと感じるのはやはりネルが言った通りに殺気を感じているからなのだろうか。


「さあ、そろそろ奥に着くわよ」


ネルにそう言われて、前を向くと少し広がった空間が見えてきた。

洞窟自体は奥に進むほど暗くなっていたから、奥の方も暗くなっているのか、などと思っていたが奥の方は思ったより明るくなっている。

満を持して中に入ると、奥行き五十メートルほどの空間が広がっていた。


「さあ、見えてきたわね。今回の討伐対象が」


言われずとも見えている。

奥の方に、体長約三メートルほどのオーガにしては少し小さい、だが十分に威圧感を感じる巨体がすでに見えているのだから。

オーガの方も僕たちに気が付いたのか、ゆっくりと体を起こし僕と目が合う。


「ガァァァアアアア!!!!!!」


そして、合図がなった。

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初級を極める魔法使い〜追放されたけど、基本を極めて頑張ります〜 すうぃりーむ @suuli

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