第4話 初めての依頼は
「依頼に書いてあった場所はこの辺りね」
「そうみたいですね。少し観察してみましょうか」
「ええ」
僕とネルは依頼にあったゴブリンの巣の殲滅を行うため、冒険者ギルドから少し離れた集落までやってきた。
依頼によれば、集落のはずれにある洞窟にゴブリンの巣が出来ているらしいのだ。
村長に話を聞いてみれば、ゴブリンの巣が出来たのは最近だと言う。まだ人を襲ったりはしていないが、作物などを盗まれ大変な思いをしているらしい。
少し話を聞いた後、実際にその洞窟を見るために村のはずれまでやってきた。
洞窟の入り口が見える位置で観察していると、ゴブリンが数匹出入りしているのが見えた。
「どうやらここがゴブリンの巣みたいですね。規模は結構小さいみたいです」
「そうね。まあ依頼や村長にも新しくできた巣で小さいと言っていたし、初めての依頼にはちょうどいいんじゃないかしら」
「そういえば、作戦はどうしますか?」
「数は規模を考えるとまあ十匹前後だと思うわ。対処はできる数だけど、やっぱり最初のほうに数は減らしたいわね。入口にいるやつに奇襲をかけるか洞窟に向かって魔法を撃つのが良さそうね」
僕もB級としての意地としてゴブリンぐらいなら全然相手にできる。
それにネルもB級で実力はそれ以上だろう。それでも安全を見越して奇襲を仕掛けるのは良い案だ。
「僕も同意見です。魔法はどうします?」
「あなたと私で同時に使うわよ。その前に入口にいるやつを倒しましょうか」
「ええ。右は僕がやります」
「分かったわ。私は左ね」
そう言って僕とネルは隠れていた岩から一斉に走り出す。
ネルは数メートルほどある洞窟の入り口の左側にいる少し小さいゴブリンに向かって剣を突きの型で走り出し、僕は岩から少し走ったぐらいで減速する。
「『火球』!」
お得意、というか僕が唯一できる初級魔法を即時展開し、発動する。
僕がちょうど放ったタイミングでゴブリン達は僕達に気づいたようだが、もう遅いだろう。
「「ギイィッ!!??」」
狙いすました炎の一撃はゴブリンの頭をちょうど撃ち抜いた。
右の方のゴブリンは倒れ込み、そのまま絶命したようだ。
ネルの方を見てみると、そちらもすでに終わっていたようだ。
見事に横一文字に薙ぎ払われ、倒れているゴブリンが見えた。
「終わったようね。怪我はない?」
「魔法を遠くから撃っているだけですからね。怪我なんかしませんよ」
「というかあなた、魔法の才能が凄まじいわね。展開速度はもちろん、コントロールも正確だわ」
初級しか使えない以上、そんなところで差をつけていくしかないのだ。
そのことに早々に気づき、ずっと前から早朝に魔法の練習を欠かさず行ってきた。
その成果か、今ではある程度早く展開とコントロールはできるようになったがまだまだだろう。
もっと早くしなければ、追いつけない。
「それしか取り柄がないですからね。展開とコントロールは努力ですよ」
「それでも凄いわ。戦いにおいて早さと狙いは武器になる。誇って良いと思うわよ」
......そんな風に言われたのは久しぶりだな。
アルマ達にも何度か言われたっけ。
僕にもすごいって言ってくれて嬉しかったけど、あっという間に僕なんかよりも強くなったし。
「......そんな風に言われるのはほとんどないですよ。ほとんどの人は魔法の威力を求めますから」
「それでもよ。私は家柄上、戦いについては人より詳しいと思っているし、強いと思ってる。それに、凄いと思うものはしっかりと口に出さないとね」
そういって横にいるネルの顔は少し笑っていた。
なんだかとても救われたような気分だ。
彼女に追いつくためにこれからも頑張っていかないといけないな。
「とにかく、まだ依頼は終わっていないわ。ほら、先に魔法を撃ち込んでいくわよ、『火炎』」
そう言って、ネルは中級魔法にしては強すぎる『火炎』を洞窟に向かって無慈悲に撃ち込んだ。
......なんて残酷なやつなんだ。
まあ僕も何発も『火球』を撃ち込んだから人のことを言えないが。
「ほら、早く行くわよ」
ネルにそう言われ、先に洞窟に入って行くネルを僕は慌てて追いかけた。
結論から言うと、洞窟の中のゴブリンはほとんど残っていなかった。
洞窟は横に広がっていたが対して広くもなく、入口の方のやつはほとんど撃ち込んだ魔法で死んでいた。
残りは奥の方の少し広がっていた空間に数匹いる程度で、ネルによって一瞬で倒されていた。
「終わったわね。じゃあ戻りましょうか」
「やっぱり、ネルさん強すぎじゃないですかね...」
「そんなことはないわ。私のお兄様やお姉様も強いわよ。それに、あなたも弱いってわけじゃない。もっと自信を持ちなさい」
王国でもかなりの実力者である彼女にそう言われては、何も言い返せない。
「......とりあえず、戻りましょうか」
「ええ、そうね」
冒険者ギルドに戻り、依頼完了の証明としてゴブリンの魔石をシナさんに手渡した。
小さい魔石をいくつかチェックしたシナさんは、僕の方を向いた。
「まずは、依頼お疲れさまでした。怪我もなさそうでよかった。それで、カーク。ネルディーナさんとはこれからも組んでいくの?」
「僕は組みたいと思っていますよ。ネルの足手まといにならないといいのですが」
「カークは昔から考えすぎね。君は決して弱くないんだから、もっと自信を持てばいいのに」
「だから何度も僕は強くないって言ってるじゃないですか。初級魔法しか使えない魔法使いなんて他にいませんよ」
「それを差し引いても、君の展開速度とコントロールは一流だわ。それは強みになる」
「いや、だから......」
僕が言い返そうとすると、いきなり後ろから話しかけられた。
「遅いわよ!早く次の依頼を確認するわよ!」
どうやらネルが我慢できずに来たようだ。
僕の服を後ろから引っ張っているため、ちょっと痛い。
「痛いです!後ろから引っ張らないでください!!」
そんな僕たちを見てシナさんが少しにやにやしながら話しかけてくる。
「二人とも、仲がいいですね~。ネルディーナさんはこれからもカークとは組んでいく予定なんですか?」
そうシナさんに聞かれると、ネルは腰に手を当てて答える。
「当然よ!カークは自分のことを卑下しているけれど、こいつは弱いわけじゃない。私がもっと強くしてみせるわ!」
「そんな大きな声で言わないで下さい!恥ずかしいですよ!!」
ネルを全力で止めるべく、手に力を込め彼女を捕まえる。
......後ろの方からはやし立てる声が聞こえた気がしたが、気にしないでおこう。
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