第3話 ネルの正体

「それで、パーティーを組むって言ってもどうするの?」


ネルとパーティーを組むことになり、これからの相談のために近くにあったお店に入る。

このお店はそれぞれの席が個室となっていて、冒険者を問わず様々な人が利用している。

そのおかげか、お値段は少しお高くなっているがそれ以上のメリットがあるだろう。

お店の奥の方の部屋に入り、飲みものと簡単な料理を注文し、ネルに話しかける。


「決まってるじゃない。冒険をするのよ」


彼女はそう言い切ると、自慢げな顔をする。


「そうはいっても...僕は魔法使いだし、前衛は一人だけ。二人で冒険なんて結構辛いと思うよ?」


「バカね。私がいれば誰にでも、何にでも勝てるわ!!」


「何でそんな自信があるんだ...僕も見習いたいぐらいだよ」


僕がそう一言こぼすと、ネルはこう答える。


「自信があるのは強いからよ。というか、あんた。私のこと聞いたことないの?」


「そりゃあ聞いたことなんて...いやちょっと待って...!!??」


待て待て待て待て待て!!!!!!!????????

ネルの名前はネルディーナのはず。ネルディーナという名前はある公爵家のご令嬢だったはずだ。

その公爵家はトワイライト公爵家。

このアルバーン王国を統治する王家の次に偉く、王家を支える四つの公爵家の中でもかなりの武闘派であるトワイライト公爵家。

トワイライト公爵家の長女は剣士として一流であり、魔法においても類稀なる才能があるかなりの実力者であり、名前はネルディーナ...ということは...!?


「つ、つかぬことを伺いますがあなたは、ネルディーナ・トワイライト公爵令嬢でしょうか?」


僕がつっかかりながらもそう問いかけるとネルは少しクスッとした。

その後、コホンッと咳ばらいをし、僕の方を見た。


「ええ、そうよ。私はネルディーナ・トワイライト。公爵令嬢と言っても、あまり貴族としてのマナーなんかは気にしてないから、普段通りに話して大丈夫よ」


「え、えぇ。そう言われましても...」


「とにかく、私が自信があるのはそういうことよ。私は、自分の強さを知っている。だから自信を持てるのよ」


そう言い切る彼女はとても強いな、と思った。

少しして、店員が頼んでいた飲み物と料理を持って部屋に入ってくる。

良いにおいがする紅茶とチーズケーキが二つずつテーブルに置かれる。


「とにかく、一緒にパーティーを組むわよ!」


チーズケーキの先端をフォークで切り落としながらネルが大きな声で僕に言う。


「分かりましたよ。では、ネルが前衛で僕が後衛支援でいいですか?」


あ、このケーキ美味しい。

そんなことを思いながら、組み合わせを決め(といってもこれしかないだろうが)ネルに確認を取る。


「ええ、それでいいわ。じゃあ早速、今日から冒険に行くわよ!!」


そう言ったネルの皿を見ると、チーズケーキはほとんどなくなっていた。


「え!?ちょっと待ってくださいよおおおお!!」


三分の二程度残っていたチーズケーキと紅茶を詰め込み、既に店を出ていったネルを追いかける。




ネルを追って数分。

僕は冒険者ギルドの前まで辿り着いた。


「はぁ、はぁ、やっと追い付いた...」


「遅いわよ。じゃ、早速中に入りましょうか」


そう言ってネルは重厚感あふれる扉を軽々押し、中に入る。

中に入ると僕たちは依頼などが貼ってある掲示板の方へ歩き出し、掲示板の前に立つ。


「そういえば、カークのランクはどこらへんなの?教えてほしいわ」


ランクというのは冒険者としての等級を示すものだ。

Fから始まり、S級が一番上である。

高ければ高いほど難しい任務を受けられるようになり、同時に名誉でもある。

そんな僕のランクは二年間冒険者として活動してきて、今のところは一応B級に到達している。

と言ってもB級になれたのは最近だし、アルマ達のおかげなので僕自身の力では到底ない。


「一応B級になってるよ。ネルは?」


「私も今はB級ね。最近冒険者になったばかりだからまだここが限界だわ」


驚いた。

冒険者になったばかり、それにソロで活動してもうB級というのは凄まじい速さだろう。

やはりトワイライト家の公爵令嬢は格が違う。


「すごいな...それでなんの任務を受ける?」


僕がそう問いかけると、ネルが答える。


「そうね、今日はまだパーティーを組んだばかりだからあまり難しすぎると危険だわ。とりあえず少し簡単なものにでもしましょうか」


至極当然の判断だろう。

いくらネルが強いからと言って、今日は組んだばかり。

そんな状況で難しい依頼を受ければ危険すぎる。

そのことをしっかり意識し、二人で依頼を探すこと十分。

ようやく条件に合いそうな依頼を見つけた。


「お、この依頼は良い感じだ。ネル、これなんかどうかな」


そう言って掲示板に貼ってあった紙を取り、ネルに手渡す。


「ゴブリンの巣の殲滅...。いいわねこれ。難しすぎず、簡単すぎない。これにしましょう」


「なら良かった。それじゃ、受付のシナさんに出してくるね」


「任せたわよ」


受付のところに行くと、シナさんが出迎えてくれた。


「カークじゃない。パーティーから抜けたって噂、本当なの?」


なんとまぁ耳が早い。


「まあ本当です。今は別の人と臨時で組んでますが」


そう言って少し離れた掲示板の近くに立っている金髪の女の子、ネルを指さす。


「もしかして...あなたが組んでいるのってあのネルディーナ公爵令嬢!?何があったのよ!?」


「声を抑えてください...いろいろあったんですよ。とりあえず、これ。よろしくお願いします」


興奮気味のシナさんを宥め、依頼の紙を渡す。


「ええ、ごめんなさい。それで、ゴブリンの巣の殲滅ね。とりあえず心配はないとは思うけど、気をつけなさいよ」


「はい、ありがとうございます。行ってきますね」


そして僕たちの初めての依頼が始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る