―2―
今日はクリスマス・イブ。時刻は九時半を回っていた。
「今日にぴったりのケーキないっスか?」
来店したお客さんが放った一言目がこれだった。背の高い男性。金髪。黒の革ジャンを着て、銀の鎖をジャラジャラとズボンにつけている。少し古いチャラい男代表のような人だった。
「えっと・・・彼女さんにプレゼントですか?」
「まぁそんなところっス!一緒に食べるつもりっス!」
お熱いですねぇ。
元気の良い言葉。店内に軽く響き渡るほどだった。幸い、他にお客さんはいないので迷惑にはならなかった。
「では、彼女さんの好みの味など、何かありますか?」
「個人的にはチョコのロールケーキとか考えてるんスけど」
そっスねぇ、と。天を見て思い浮かべながら言った。答えになっていない。私はとりあえず微笑しておいた。
しかし、革ジャンのお客は「あっ」と声をあげて、天に向けたばかりの視線を、すぐこちらに向け直して、こう続ける。
「そういえば大人っぽいのが好きとか言ってたんスよ。なんかそんな感じのやつってないっスか?」
漠然としすぎている・・・。
彼女さんに対して興味が感じられない。大事にしている訳ではなさそうだ。この手の人間は、女を手に入れたから終わり、みたいな考えをしているのだろう。偏見ではあるけど、過去にそういう人を見たことがある。
「ケーキにあんまし興味なくて、どれが良いのかわかんなくて・・・」
「彼女さんとはどれぐらいになるんですか?」
「前の彼女は見る目なくてフラれたっスけど、すぐ今カノに告られたから・・・二、三ヶ月っスかねぇ?」
そういうことですか・・・。
「でしたら・・・」
「―――ありがとうございました!」
一つのケーキを勧めてみたら、気に入ってもらえた。勧めたのは、たっぷりと浸みたブランデーケーキ。
「なんかクリスマスには合わなくないっスか?」
「夜景を眺めながら、温かい飲み物と一緒に召し上がってみては如何でしょう?例えば紅茶とか」
革ジャンのお客は、おぉ!、と声を上げて即購入していった。当店のブランデーケーキは原料が葡萄のブランデーを使っている。所謂、グレープブランデーというもの。丁度お客の彼にもピッタリだと思った。
私はどうもあの手の人が苦手なんだと再認識した。単に祝福するだけで良いのに。恨みとかはないんだけどなぁ。
私はこれから帰っても一人。一人暮らしなので誰もいない。それに比べて、チャラいけど、お客さんは恋人がいる。
―――ふと、酔った方が幸せになれるのだろうか、と考えてしまう。
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