第13話 資料室

 次の日の朝、俺は夜にうなされる事もなく元気に起床した。

 うん、良い朝だ。輝く未来に続く朝だ。おねしょとかも存在しない。あんなものは一時の気の迷いだ。未来に輝く俺にはなんの関係もない。


『なんの話ですか、マスター? マ"』


 おう、ヘルくん、おはよう。今日も元気だね。

 元気があれば転生も出来る!


『はい。おはようございます。マスター。

 で、朝からなんですか? そのテンションの高さは? マ"』


 フハハハハ! これが高まらずにいられようか!

 ついに偉大なる俺様の時代が始まるのだ! その第一歩が今日の資料アサリだ。心してかからねばならんぞ、ヘルくん!


『なんで朝からこんななんですかね? 高血圧かなんかでしょうか。うっとうしいですね。どうにかならないですかね。マ"』


 うるさいよ、ヘル。

 まあいい。さっさと朝食を食べて資料アサリにはげむか。

 急いで朝食を食べてバズに物置の鍵をもらうとさっそく向かった。ついでに灯りの魔道具を借りた。暗くて資料を読むのに困らないように念の為だ。


 物置は結構でかい。それもそのはずでその建物は二百年ほど前まで領主館として使われていた由緒あるものだからだ。それをそのまま物置として使っている。聞く所によるとパンロックの時代からあるらしい。


 ヘルに確認すると記録にはくわしくは残っていなかったがパンロックが自分で建てた物のようだ。

 だが老朽化はさけられず仕方なく領主館を建て替える時に取り壊さず取りあえず物置として取っておく事にしたらしい。


 領主の敷地の奥の方に物置はたっている。

 物置につくとさっそくカギを開けて中に入る。中は結構綺麗に掃除してあるようだ。そのまま住んでも良い感じだ。もしかしてバンドナが一人で手入れしているのか? 謎だ。


 物置には前にも何度か入った事があったがそんなに気にしてなかったので資料室を探すのに少々手間取ってしまった。

 ようやく資料室を見つけたがバズの奴は物を知らんのか。これは資料室じゃなくて執務室だろうが。もっと勉強しろ。


 さっそく資料室に入ると中はやっぱり執務室で大きい机がどんと入口正面におかれていた。資料は机の横の方に大量の本棚があってそこに並べてある。

 バズが言っていた様に「魔石操作」のスキルに関すると思われる資料が机の上においてあった。


 良くこんな大量の資料の中から探せたなとちょっとバズを見直したがすぐにバンドナに手伝ってもらったんだと気付いた。見直したのを返して欲しい。


 気を取り直してさっそく資料を見ていく。しばらく資料をぺらぺらとめくって見ていたが時間がかかる割に進まない。ちょっと疲れて来た所でヘルがこんな事を言い出した。


『一旦資料を全部見せてもらえませんか?

 見せてもらったものは取りあえず一旦画像として取り込んで記憶しておいてその中から私が該当箇所を探します。

 言っては悪いですがマスターが自分で探すのをずっと見ていましたが効率が悪すぎます。もっと巻きで行きましょう。巻きで。マ"』


 うん、その通りだけど言い方がね。

 それに資料を読むのが結構楽しい。色々な発見がある。その為脱線しがちでそこがヘルの気になる所なんだろう。

 まあ、今回はヘルを立てて素直に言う事を聞いとくか。


 後の資料アサリは順調にすすんだ。

 とまあ言っても俺は只の資料めくり機になっていただけだけど。

 そうこうしている内に夕方近くになってきた。

 今日の作業を終りにしようかという時に机のはしに積んでいた資料の山がくずれた。

 机の横にも以前から本などが積んだままの状態でおかれていてそれが雪崩をうって崩壊した。


 あーあ、と思いながら椅子から立ち上がりくずれた本と資料を確認した。資料の方はすでに読み込み済みの物で一安心して片づけるのは明日にしようと目を横に向けた。


 そこにちらっとネームプレートの角が見えたような気がした。

 俺は一瞬停止したが今の事が良く理解出来なかった。


 ネームプレートは人体の中にあるデータチップによってその情報が頭上にAR表示されている物で管理者である俺だけが見る事が出来る物だ。

 では今見たのにはどんな意味がある?

 ネームプレートが見えた。つまりその下に人か魔獣がいるもしくはデータチップがある。この資料室は二階にある。必然ネームプレートの主は一階の天井と二階の床下の間にいる。


 そんな所に隠れる必要はない。あるとすれば俺を見張ることだがまだ何者でもない一介の一領主の息子を見張っても意味がない。


 もしかすると物置で俺が変な事をしないか見張る為に謎の侍女バンドナがいる可能性があったが今は夕方も近く夕食の準備に忙しいだろうからそれはない。


 また魔獣が隠れているならそんな所にいつまでも隠れていないでとっくに襲われているだろうからそれもない。


 最後の最悪の可能性が死体があるという物だ。過去の領主の闇を見せられるというのもない訳じゃない。まあここに隠す必要性はないか。普通他に持ってくだろうし。


 まあ無難に魔獣の魔石が落ちているという物だと思うがまさかもないこともない。

 疲れるが一応確認しておくか。

 俺はそうして本などを片づけ取りあえずネームプレートが見えるようにした。ネームプレートにはこう表示されていた。


【研究室 責任者:パンロック・ロリングストン ▼】


 どゆこと?




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