第14話 隠し扉

【研究室 責任者:パンロック・ロリングストン ▼】


 どゆこと?


『これはマーカーですね。「フラグメント・ポイント」に書き込まれている情報を自分の好きなように書き替えて重要な地点等に設置しておく事でその場所を忘れないようにする方法ですね。マ"』


 なるほど。そんな使い方も出来るんだな。

 で、これはどんな意図でここにあるんだ?


『それはマスターがご自分で調べるしかありませんね。マ"』


 まあそうだよな。

 俺はネームプレートのある床を調べてみた。だが一見して他の所と変わりがないように見える。

 するとヘルが床板の隙間がちょっと広いんじゃないかと指摘してきた。


 床は細い板が並べられたようになっていてネームプレートのある所の板が少しほかのところと比べると隙間があるみたいだ。

 板をずらせないかと力を入れてみると壁側に少し動くようだ。すると開いた隙間の下にはくぼみがあってそこにいかにもなボタンが付いていた。


 俺はヘルにどうするべきか確認してみた。

 ヘルはなにか不測の事態が起きてもまずいので今日の所はここまでにしておいて続きは明日行うようにしようと言って来た。

 まあ俺ももう夕食の時間だと思い、続きは明日にすることにした。


 母屋に帰り夕食を皆で取った後バズに今日あった事を簡単に説明しておいた。バズも隠しボタンに関しては知らなかったようでびっくりしていた。そして見つけられたのも俺のお陰だとよろこんでいた。


 明日またくわしく調べる予定だというとママンと姉さんが大丈夫かと心配してきたが、まあ調べるだけなら特段の危険はないだろうとのバズの言葉にしぶしぶ納得していた。


 俺も十分気を付けると約束させられた。

 皆にあった事を素直に話したのは安全策の一環でもある。俺は出来るだけ危ない橋は渡らない事を信条にしている。「こんな事もあろうかと」の精神である。昔の人は良い事を言うなぁ。


 そんなこんなでその日は終わりベッドに横になりながらあのボタンの事をつらつらと考えながら眠りについた。


 次の日も朝から資料室に行く。

 俺は働き者なのである。小心者なのかもね。

 まあそんな事はどうでも良い。


 執務室に着くと早速ボタンを調べる。

 ボタンの上に相変わらずネームプレートが出ている。

 ネームプレートの右はしに例の詳細スイッチ「▼」があるので押してみた。


 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


 研究室

 責任者:パンロック・ロリングストン


 このスイッチは特別研究室への扉を開ける為の物である。

 まあ言うまでもないか。見ればわかるであろう。

 なぜ私はこんな事を書いているのか。未来にこのスイッチを発見でもした者への忠告であろうか。人のなした物を後から来て苦もなくさらっていく卑怯者への恨み言であろうか。

 では発見者よ、パンドラのふたを開けよ。


 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


 お、おう。なんかやけに世間に対してのいきどおりを隠さないしんらつさがかいま見られる注釈だな。そんなに人に言いたい事があったのかね。


『なんだかマスターっぽい人ですね。変に根に持っていそうで怖いです。マ"』


 おいヘル。それはどういう意味なのかね? 私がなにか根に持っているとでもいうのかね?

 心外ですね。私は次の日にはたいがいの事は忘れているとちまたでは評判なんですよ。プンプン。


 まあ世間に対しての不満以外は特に気にするような事もない説明書きだったので取りあえず安全だろうとボタンをこわごわと押してみた。

 ボタンは「カチッ」と音がしてしずみ込んだ。

 俺はなにが起こるのかとかたずを飲んで見守ったが大きな変化は見られない。


 なんか変化あったか、ヘル?


『はい。部屋の奥の方にある本棚の方でなにかの作動音がしました。マ"』


 オイオイそんな所のスイッチをこんなとこに仕掛けるなんてどういう底意地の悪い奴なんだ。あきれるね。

 見つけられない様に二重三重にまわりくどい仕掛けにでもなっているのか。


 とにかくそこへ行ってみるとそこの本棚が少し前へ出っ張っている。

 触ってみると案外軽く動かせるようで手前がわに開くように動かせた。

 すると本棚の裏に隠し通路があらわれた。なんかこんな物が出てくるとがぜん好奇心が高まってくる。


 中は暗いようなので昨日借りたままになっていた明かりの魔道具を持ってきて中をのぞいてみた。中は少し通路になっていたがその先に階段があるようだ。

 俺は慎重に歩を進め階段をおりていった。


 途中で折れ曲がった結構長い下り階段をおりた。大体三、四階分か。下には長い通路があらわれた。ところどころに部屋の扉らしきものが見える。


 手前側の扉から開けようとしたが鍵がかかっているのか開けられない。無理に開けようとはせずにどんどん確認していく。一番奥の扉まで来たがそこまでの扉は全部開かなかった。ここのも開かなかったらどうするかと思いながら確認するとようやく開く扉だった。


 扉の中は見たまま研究室然としたたたずまいだった。

 複数の作業用の台が並びその上に研究資料や実験道具のようなものが所せましとおかれていた。

 俺の想像通りの感じだなあと思いながら色々見て回った。


 ヘルにどのくらい古い物か分かるかと聞いたが結構古い物だとしか分からんようだ。使えんなあと思うと無理言うなと返された。


 うろうろしていたらヘルに奥の壁を見よとうながされた。一体なによと見てみるとそこには低い棚がありその上にいかにもな魔法の杖っぽい物がおかれていた。


 良く見てみようと近づいてみるとその杖には先端に「赤い」宝玉の様な物が付いていた。

 しかしその宝玉がちょっと変わっていた。いやかなり変わっていた。


 なんとその宝玉は人間の脳をかたち取った物だった。

 ちょっと、いやかなりうす気味悪い。まるで人間の脳をそのままそこに取り付けたような感じだ。脳のしわの感じも実物のような感じで不気味だ。

 その杖に声も出せず見入っているとふと壁に何か書かれているのに気が付いた。


 そこには驚愕する事が書き殴られていた。


 [この杖は私の人生の全てを注ぎ込んだ最高傑作である。

 これを次代をになう新たな管理者にさずけよう。

 これを使って世界の謎を大いに解き明かしてもらいたい。

  by パンロック・ロリングストン]


 俺はそれを見てこの杖は俺の為に用意してあったのだと思った。

 フラフラとその杖に近づいていく。そしてそっと手を伸ばす。


『マスター。接触するのはちょっと待って下さい。それはデータチップで構成されています。安全確認がまだ終わっていません。マ"』


 え?


 ヘルに言われた時にはすでに杖にさわってしまっていた。

 俺はよく考えもせずにその杖をさわってしまった。

「赤い」宝玉がなんで出來ているのかを気にもせず。








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