第11話 食事回

 ヘル。

 魔石というかデータチップは全ての動物に入っているのか?


『いいえ、全てではありません。

 総合ネットワークにとって管理する意味がある物だけです。

 小さな小動物等はその数が膨大になりますから管理するとコストがかかる割に収益が上がらず損失だけが出る事になるので管理対象に入れていません。魔っ』


 そうなるか。じゃあ魔獣はどうなんだ? あれは管理出来てないだろ?


『いわゆる魔獣と呼ばれる物は元は全て普通の動物です。長…くはない時の中で進化して従来の獣より偶然強くなり自然に帰った物です。この進化の速さは多分にデータチップの機能による所が大きいです。魔っ』


 今度は「魔っ」か。で? 管理の方はどうなんだ?


『今言おうと思ったのに。管理と言っても色々あります。

 魔獣に対して行っているのは生息範囲の把握と個体数の増減の推移を見張る事だけです。

 積極的に個体数の増減を管理する様な処置は行っていません。これも損益に関わる事です。魔っ』


 うーん。世知辛いな~。魔獣の討伐とかはどう思っているんだ?


『いわゆる専守防衛ですね。魔獣を倒しても大した利益は出ません。魔獣の肉は家畜と比べても大して変わらないらしいですし、魔石は家畜からも取れますので魔獣の魔石に対する需要は高くありません。都市部では特にですね。魔っ』


 魔獣の魔石と家畜の魔石とで差は無いのか? 個体の強さに比して大きくなるとか機能が上がるとか。


『元が大量の家畜を管理する為に仕様が決められた工業製品です。製品にバラつきがあったら使えません。

 ですから基本的には同じ物のはずです。個体の強さにも左右されません。というかともすれば魔獣の方が定期的なメンテナンスが受けられないので逆に品質が低下している恐れの方がありえます。

 ここでちょっと魔石ことデータチップと宿主である生体すなわち宿主体の事についても説明しておきたいと思います。よろしいですか? 魔っ』


 ああ、お願いする。


『じゃあ後程続きを行います。魔っ』


 ん? 後程?

 と疑問に思った所で扉から声がかけられた。


「ハーちゃん、そろそろ夕食だけど食堂に来られる? 」


 声をかけて来たのは俺の二つ年上の姉のアメリアだ。しっかり者でもう既に求婚者が何人もいる。

 だがまだそんな気は全然ないそうだ。そんな事言ってると近所のおばちゃんの様に行き遅れになってしまうぞ。

 まあいい。それより、もうそんな時間か。ヘルと大分話し込んでしまったな。まあ声には出していないが。


「うん分かったー。直ぐに食堂に行くよ。」


 俺も朝から何食も飯を抜いているからいい加減我慢が出来なくなってきた。布団を跳ね除け急ぎ足で食堂に向かった。

 そこには既に他の家族が全員揃っていた。


「おう、もう調子は良いのか? 無理するなよ。じゃあ食事を始めるか。昨日はハーロックに素晴らしいお力が授けられたので今日の夕食はお祝いだ。皆で美味いもんでも食べよう。乾杯! 」


 バズのお話が終わって楽しい夕食が始まった。

 今日の夕食のメニューはごろっとした野菜が入ったシチューと野生の鳥を野趣豊かに焼いたものとちょっと硬めのパンだ。パンは薄くペラペラに切ってある。後は何かの漬物っぽいのや酒のつまみくらいか。

 さっそく俺はシチューに手を付けた。うん、いつもの様に美味い。それに今日は良い肉も入っている。腹が空いていたのもあって俄然口に運ぶスピードも速まる。

 俺はこのシチューが前から結構好きで器に残った物まで、最後まで薄切りパンで綺麗にふき取るようにして食べるのが定番だ。前世で食べた物の記憶も残っているがなぜかこちらの方が美味しく感じる。

 野生の鳥の小さな骨にくっ付いた肉をしゃぶって食べるのも好きだ。俺って貧しい食生活の方が合ってるのかね? まあ美味しく感じないよりは良いか。


 食卓を見渡すと美味しそうに食べる家族の姿が見える。

 食卓のお誕生日席にいるのはもちろんバズでその横に俺のママンのマリーシェがいる。

 マリーシェはママンの呼び方が似合う、どこかの貴族婦人といったたたずまいでそそと食事をしている。本当に偉い所のお嬢様だったみたいなのになんでバズと結婚なんかしたんだ? 不思議でならん。


 ママンは俺に対しては熱愛って程でもないが優しくしてくれる。元々ポヤポヤした性格なので子供を産んで結構経つのにまだお嬢様然としていて一見すると優しいお姉さんの様だ。

 その隣に座っているのが俺を呼びに来た姉のアメリアで性格はバズとママンを足して二で割ったような感じだ。ちょっと男勝りな部分もあるが優しい姉だ。昔からハーちゃん、ハーちゃんと呼んで構ってくれていた。でもいい加減ハーちゃん呼びは恥ずかしいから止めてくれると嬉しいな。


 俺はバズの隣、ママンとは反対側に座っている。

 その俺の横に侍女に世話してもらいながら食事しているのが俺の弟のファンロックだ。まだ三歳だ。

 俺はこいつが生まれてきたお陰で後をたくして心置きなく自由に生きる事が出来る。ファンロック様様だ。生まれて来てくれてありがとうよ。


 こいつの性格はまだポヤポヤしていて良く分からん。五歳までの俺みたいなもんだ。

 ハッ?! まさかこいつ、俺みたいな転生者じゃないだろうな?

 いや、よく考えたらその方が良いか。もっと安心だ。


 所で家の男連中の名前、ロック多過ぎねえ? なんか先祖代々のしきたりかなんかで決まってるのか?

 そうでないのなら、俺の子供には絶対にロックは付けない! 絶対にだ!!


 ちなみに侍女はバンドナというおばs、お姉さんだ。俺の世話もしてくれた頼れる人だ。頭が上がらない。

 この人が食事とかの家事をほとんどやっている。ママンとかはちょっと手伝う位だ。この人がいないとうちが回らないんじゃね? バズよりもよっぽど偉いんじゃないか?


 まあ、これが俺の家族だ。楽しい我が家だ。出来るだけ大切にしたいと思っている。

 分かったな、ヘル。


『はい、了解しました。魔っ』






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