第9話 不具合

 俺がサーラにおでこをくっつけられてドギマギしている所に誰かが勢いよくドアを開け入って来た。

 まあ、バズロックなんだけどね。もうこいつの呼び方、バズで良いか。ロックは永久に俺のもんじゃい。絶対にやらんぞー。


「おう、起きてたか。と、おじゃましちゃったか? 悪いな。でも、もう手を出してんのか? ませてんな~。俺の時より早いぞ。」


 このばかちんがー! んな訳ねーだろ! もっとよく見ろ! 相手はまだガキんちょのサーラだぞ。頭大丈夫かこいつ。まあ、さっきはちょっとドキッとはしたけども。ちょっとだけな。


「はい~、おしまい~。体温は三十七.五、だよ~。あれ~、おじさんもきたの~? 」


「そんなんじゃ無いよ。体温をはかってもらってただけだからね。それより、いきなりどうしたの? なんかあった? 」


「おう、そうか。さっそくお力の効果をためしてたのか。医術だったよな。どんな感じなんだ? 上手く使えそうか? 」


「うん~。ロッくんにも~、れんしゅうを手伝ってもらって~、なんとかなりそうなかんじ~? 」


「そりゃ良かったな。これからも頑張れよ、村の為にもな。おっと、ハーロックの用事がまだだったな。

 おい、ハーロック。安心しろ。お前が気絶するほど気になっていた「魔石操作」ってお力の事を調べていたんだけどな、昔のお力の事をまとめた資料にのっていたぞ。そしておどろくなよ。そのお力はなんと御先祖の中でもすごく優秀な方々ばかりがさずけられた物だってよ。中でも中興の祖と呼ばれるパンロック様もそのお力をさずけられたお陰で大いにご活躍出来たそうだ。お前の将来もこれであんたいだな。それに、お前のお陰でこの村はもっと発展するぞ。ガハハハ。」


 そりゃ管理者用スキルなんだからさずかった奴が優秀なのも当たり前だ。でなければさずける意味が無い。

 俺でも知ってる有名なご先祖のパンロックって奴も持ってたのか。特別出来が良かったらしいそいつもまさか転生者って訳じゃ無いよな? 後でヘルに聞いてみるか。


 それよりなに勝手に盛り上がってんだよ。そんな自分だけに都合が良い幸福な未来予想図をえがいてんじゃねえ。

 俺はこんな辺境の村におさまる様な小さい人間じゃねえぞ。それこそ世界に羽ばたく翼の様に自由に飛び回り好きな事をして暮らして行くんだからな。異世界転生したと分かった時に決めた夢はまだあきらめた訳じゃないぞ。


 まあ、スキルが普通と違うと知って不安になって気絶したと思った俺の事を気づかって、色々調べてくれてたみたいだから、ちょっと位なら手伝っても良いけど。ツ、ツンデレじゃねーし!


 そんな事よりももっと気になる事が出来た。

 この場をとっととおさめて一人にならないと。


「そうなんだ! 良かったー。同じお力の人が前にもいたんだ。変なお力をさずかってしまってこれからどうしようかと思ったよ。あー、安心したらまた眠くなって来ちゃったよ。」


「お、そうか。まあお力のくわしい事はまた後でも良いからな。今は休んでおけ。お力は逃げないしな。ガハハハ。じゃあな。」


「ロッくん~。それじゃあ~、わたしももう帰るね~。またね~、ばいば~い。」


「ああ、二人ともありがとう。それじゃあちょっと寝るね。じゃあまたね。」


 そう言って二人は部屋を出ていった。

 俺はそのままベッドにゆっくり倒れこみ目を閉じた。


 ……。

 …………。

 ………………。


 しばらくたった後、俺は目を開けて天井をにらみつけた。


 自分自身の事をそんなに利口だとも思っていなかったが、ここに来て俺はどれだけ自分が抜けているかに気付かされた。

 俺はあれだけスキルが欲しいと思っていたはずなのになんで今までその事を忘れていたんだ?

 スキルの効果の確認するのを後回しにしてから、バズにスキルの名前を言われるまでの間、完全に忘れていた。

 目の前でサーラがスキルをひろうしていてその真価におどろいていたのにもかかわらず自分のスキルの事には思いいたらなかった。


 俺はさずけられたスキル「魔石操作」の事を無意識に忌避していたのか? それとも怖がっていたのか?

 何故そんな事になったのか、俺の心に何か期する事でもあったのか?

 分からない、分からないがなんにせよ俺はなぜか自分のスキルの事を思考の外に置いていたのはたしかだ。


 取りあえずヘルを呼び出して色々確認しよう。

 今までの事は見ていて分かっているんだろ?


『はい。分かっています、マスター。』


 で、ヘルの見解ではどうなっているんだ? 教えてくれ。


『はい。まだ情報はかなり不足していますが推測する事は可能です。確度は下がりますがよろしいですか? 』


 ああ、それでもいい。頼む。


『では推測した内容を説明致します。

 今回の事はマスターが転生者である事が原因だと考えられます。

 マスターは転生する前の自身の事をあまり詳しく記憶しておられない様ですが、これは実際には思い出す事を無意識に拒否している可能性が有ります。

 そして前世の記憶が封印されている状態だとすると、その記憶の中にもし「魔石操作」のスキル、あるいはそのスキルに関連する事柄がありますと、現世で新たに得た「魔石操作」に関する記憶をも同一視して無意識に認識しない様にしてしまっているのだと推測されます。』


 なるほど、前世でも「魔石操作」に何かしら関係していてその事がトラウマか何かになっているという事か。この記憶に対する異常反応状態を回避するのに、何か有効な対処方法があるのか?


『ある事はありますが、あまり良い手段ではありません。

 一つ目は前世に関する記憶を全てリセットする事です。封印された記憶が無くなれば新たな記憶にかんしょうする事はなくなります。

 ですがこれはマスターの転生者という優位性も同時になくなるという事です。ひつぜん、前世の記憶に由来する性質、即ち個性もなくなり変化する事になります。

 簡単に言うとマスターがマスターではなくなります。前世の記憶を思い出す前のマスターに戻るという事です。

 そして五歳からの記憶にある自分と元に戻った自分との性格や行動規範の矛盾が生まれ精神異常状態になる可能性も多分にあります。

 二つ目は前世の記憶か現在の記憶のどちらかを外部拡張記憶領域に移動してしまう方法です。

 こうする事で「魔石操作」関連の記憶の直接の接触をなくし記憶情報間に一時的な距離をもうける事が出来、おたがいのかんしょうをふせぎます。

 これは一つ目に似ていますが記憶を消去してしまう訳ではないので人格に関しては変化しないと思われます。

 ですがこれにもデメリットがあります。

 どちらの記憶を移動するにしても本体の記憶と常時接続状態でなければなりません。その為、その機器を常時持ち歩かなければなりませんし、その機器が何かの不調もしくは接続のしゃ断で一つ目の方法と同じリセット状態になるか最悪精神崩壊が起こる可能性が懸念されます。

 この二つの方法以外では現在の総合ネットワークでは完全な対処は出来ません。』


 そうか。うーん、分かった。それじゃあ今回は早急な対処は保留するか。

 ヘル、話してる時や考えている時に何か「魔石操作」に関する事柄が出たりしたらそのつど、俺に意識する様にうながしてくれ。

 今はそれでなんとか対処しよう。


『了解しました。マスター。いつでも突っ込みますから覚悟して下さい。』




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