第5話 スキル

 とうとう俺の番になった。

 ゆっくり石碑に近づき手を触れる。そして声に出してお願いする。


「どうかいいスキルをお願いします。」


 すると、今までにない現象が起こった。石碑が急に強く光りだしたのだ。

 俺より前の子供たちの時には淡く光が強まったかなくらいだったからただの了解反応だと思っていたがどうやら違うらしい。大人たちの反応も驚いている感じだ。

 これは何やら期待してもいいかもしれない。歴代最強のスキルとかこれまで見たこともない役に立つ職業とかが出るかも。

 ワクワクして待っていると、どこかで聞いたような落ち着いた女性の声が頭に響いてきた。


『管理No.000427001967の総合ネットワークへの接続を確認致しました。

 これまで停止されていたデータリンクを再開致します。

 今後、総合ネットワークとの接続の遮断は許可されません。

 ご注意して下さい。

 管理No.000427001967の管理者ランクはCランクに設定されました。

 これからもランクアップに励んでください。

 管理者用コマンドを「魔石操作」に設定致しました。

 使用方法はヘルプでご確認下さい。

 それでは今後とも管理業務の遂行を宜しくお願い致します。』


 俺は驚いて後ろに数歩下がってしばらく呆然とした。なんだこれ。


 ……。

 …………。

 ………………。


 頭の混乱が落ち着いてくると、強烈な怒りがわいてきた。

 おいっ、どうなってんだよいったい!!

 なんだよ「管理No.」って! 「総合ネットワーク」っていったいどことつながってるんだよ!

 全然分かんねーよ!

 責任者出てこい!!


『お久しぶりです、マスター。御用件をお伺い致します。』


 俺がどとうの展開に驚愕して心の中で不満をぶちまけているとさらに別のさっきと似た声が頭に響いてきた。

 今度の声はさっきのより若い感じの女性の声だ。

 俺はさらに驚きおろおろしていたらバズロックが心配して声をかけて来た。


「おい、大丈夫かハーロック、そんなにおたおたして。もらったお力がそんなに驚くようなやつだったのか?」


 俺は声をかけられ皆の注目を集めていることに気が付いた。

 取り敢えず詳しいことを確かめるのはここでは不味いだろう。ここは無難に取り繕っておいて後で落ち着いて考えよう。


「う、うん。聞いたことのない「魔石操作」っていうお力だよ。父さん聞いたことある?」


 俺は動揺していたのかうっかり取り繕うつもりだったスキルのことを素直に聞いてしまっていた。

 あっ、しまったと思ったがもう遅かった。仕方なしにバズロックの顔色をうかがう為に顔を上げるとさらに驚くことになった。もうやだ。


 なんとバズロックの頭の上にネームプレートのようなものが浮かんでいたのだ。

 それは半透明で向こう側が透けて見え、のぞき込んできた顔に追従して移動してきた。

 近づいてきたネームプレートをまじまじと見る。

 無限知識にあったAR表示のようだ。

 そこには【バズロック・ロリングストン (35) ▼】と表示されていた。

 なるほど、しっかりネームプレートだ。名前も間違ってない。かっこの中は年齢だろう。バズロックの歳は知らないが多分そんなもんだろう。


 やけに近づいてきた顔から離れてみんなの顔を見回すとやっぱり頭の上にネームプレートがもれなく付いている。サービスがいいね。

 サーラの方を見てプレートを確認するとそこには【サーラ (10) ▼】と表示されていた。やっぱりかっこの中は年齢か。

 もういい加減驚き疲れたのでこの辺にしといてくださいとぐったりしていたのを見たバズロックがめずらしく気をきかせてもうそろそろ帰るぞと言い出した。

 俺も大賛成なのでちゃっちゃと帰りましょうととびらへと向かう。

 もういろんなことが起きすぎてどうでも良くなってきた。

 もう寝たい。後のことは後で考えよう。思考放棄だ。文句は受け付けん。


 あの後もいろいろ頭の中の声が話しかけて来たが疲れたのでしばらく声を無視していたら静かになった。

 スリープモードなのかね。

 帰り道をふらふらになりながら歩いているとサーラが話しかけて来た。

 もうかんべんしてください。


「ねえ~、ロッくん~、だいじょうぶ~? お薬いる~? わたしが作ったやつ~。元気がでるよ~? 」


「あ、ああ、たぶん、大丈夫だ。問題無い。気にするな。」


 おい、元気がでる薬って大丈夫か? 何を材料にして作っているんだ? そっちの方が気になるぞ。


 横目でサーラを見るとサーラのネームプレートが目に入った。


 そこで俺は人生最大のよけいな事に気が付いてしまった。

 ネームプレートの右端に「▼」の記号があるのを。


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