第28話 気持ちいいマッサージ
「めっちゃ優しい人たちだったね、みやっちのご両親!」
ニコニコと楽しそうに笑うパコリーヌ。
「お義父さんとお義母さんもすごく仲がよくて、あんな家庭をあーしも築きたいなぁ~って憧れちゃうもん」
「……そうか。楽しんでもらえたならなによりだよ」
我が家で夜ご飯を食べ終えた俺たちは霧島さんによって指定されたホテルに来ていた。
パコリーヌはサキュバスだ。
万が一にも彼女が無作為に男性を襲わないように夜は所在を把握しておく必要があるらしい。
強姦事件が起きた際にいらぬ誤解を与えぬためだ。
よって、宿泊は決められた場所で行わなければならない。
その理論はわかる。わかるが……。
「どうして二人一部屋なんだ……」
それもクイーンサイズのベッド一つ。
これもう罠だろ……絶対サキュバス側の意図が入ってんじゃん。
「いいじゃんいいじゃん。あーし、こういうのやってみたかったんだよね~。修学旅行みたいでワクワクする!」
ベッドの上でぴょんぴょんと跳ねるパコリーヌ。
そのせいで彼女の大きいおっぱいまでバルンバルン揺れている。
あっ、やばい。
天獄学園から離れて気が緩んでいた。
一瞬で元気になった股間棒を見られないように、とっさに反対方向に体の向きを変える。
「どうかした、みやっち?」
「いや、なんでもない」
「いやいや、何もないことないっしょ」
ベッドでジャンピングをやめた彼女はこちらへと近づいてくる。
俺は身をさらに縮こませるが、接近は止められない。
「なに、お腹でも痛い……って……あは~」
パコリーヌが顎を肩に乗せる。
密着して背中にマシュマロおっぱいの感触がより鮮明にわかってしまう。
ダメだ、バレた。
「ふぅ~」
息を吹きかけられて、ゾクゾクと快感が背筋を走る。
パコリーヌはからかうような声音で、理性をしびれさせるように甘く囁く。
「みやっちはぁ……あーしのことエッチな目で見ちゃってるの?」
――俺の理性は限界を超えた。
肥えすぎて一周回って、落ち着きを取り戻した。
「ふんぬっ!」
「ふぇっ!? みやっち!?」
「すまない。迷惑をかけた」
「い、いや、あーしは別にエッチな目で見られても嬉しいからいいんだけどさ……ていうか、血! 血出てるよ、本気で殴りすぎじゃない!?」
パコリーヌが心配して、鼻から垂れた血をティッシュで拭き取ってくれる。
俺の突然の行動で先ほどまでの淫らな空気は霧散して、いつもの俺とパコリーヌの空気感が戻ってきていた。
「う~ん、この後どうする? ぶっちゃけ寝るしかないよね~」
グ~っと両腕を伸ばして、左右に振れるパコリーヌ。
「パコリーヌ。勘違いだったら申し訳ないんだが……もしかして肩こりとかひどかったりするのか?」
「えっ、なんでわかるの!?」
「母さんもよく肩を凝った時はそうしていたからな。そうだ。よかったら俺がマッサージしようか?」
「マジ? みやっちが?」
「こう見えてマッサージの腕には自信がある」
……そういえばドタバタしていたせいでクラリアにまだリンパマッサージが出来ていない。
未だリンパマッサージの意味はわかっていないので後でやる前に調べておかないとな。
天獄学園へ帰ったら、まずは約束を果たすとしよう。
「やった~。めっちゃ楽しみなんだけど」
「じゃあ、準備するから待っていてくれ。座っておいてくれると助かる」
「オッケー。よろしく~!」
パコリーヌには返しても返せない恩がたくさんある。
今日も嫌な顔一つせず、俺のスケジュールに付き合ってくれた。
せっかくの社会旅行だ。明日は彼女の好きに行先を決めてもらおう。
そんなことを考えながら、俺はマッサージの準備を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……あーしは今、幸せの絶頂にいるかもしれない。
ガチャガチャと洗面室からみやっちが準備している音を聞きながら、めちゃくちゃそわそわしていた。
他人が見たら怪しまれるくらいには落ち着きがなかった。
へ、変なところはないよね……?
あっ、最悪……! まだシャワー浴びてないし……!
く、くさいとか思われたらどうしよう……?
みやっちのマッサージを受けることになってから、すでに五度目の身だしなみチェック。
髪もちゃんと梳かしている。汗もかいていない。変な匂いもしない。
……し、下着も気合いを入れてきたっ。
気合十分。一線越えるつもり満々。
みやっちが童貞を守り抜く固い意志を持っているのも重々承知。今日、妹の晴夏ちゃんとも会って、どれくらい大切にしているのかもわかった。
でも、万が一! 世の中にはもしかしてがあるかもしれないから!
「えへ、えへへへへ」
「パコリーヌ。準備できたよ」
「ぴゃっ!? う、うん!」
妄想を楽しんでいたところに声をかけられて思わず肩が跳ね上がる。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん、ヘーキヘーキ」
「そ、そっか……。じゃあ、これを首に巻いてくれるか」
「おけまる水産!」
みやっちはあーしの横に膝をつくと温水に浸したタオルを絞って渡してくれる。
「これで5分くらい温めてくれ」
「ええ。わかりました」
あーしはそれを手に取り、髪をかき上げて言われた通りにしようとしたところで気が付いた。
みやっちの視線がうなじに集中している。
「……みやっち?」
「……えっ、どうかしたか?」
「い、いや、そのなんでこっちのことをジッと見てるのかなーって。あ! き、気のせいだったらごめんね?」
「……あー、その、言いにくいことなんだけど……」
ポリポリと頬をかいて、彼は目をそらす。
口をモゴモゴとさせながらも、ぽつぽつと言葉を漏らし始めた。
「その……パコリーヌの髪をかきあげる仕草が艶めかしいというか……魅力的だったから」
魅力的だったから、魅力的だったから、魅力的だったから……。
頭の中で何度も反芻されて、染み込んでいく。
「みやっち」
「ん? なに?」
「あーしもみやっちはかっこいいと思ってるよ」
「……お、おう。ありがとう……?」
「う、うん。あーしこそ……ありがとう」
「……」
「…………」
『………………』
互いに赤面して、うつむく。
どこか気まずい雰囲気になり、静寂が訪れる。カチコチと秒針が進む音が大きく聞こえた。
結局、5分経つまで、あーしたちが喋ることはなかった。
「ご、5分経ったぞ」
「も、もう外していいんだ?」
「おう。じゃあ、パコリーヌはそのまま楽にしていてくれ」
「寝転ばなくて大丈夫だった?」
「肩だけだからな。座ったままで問題ない」
みやっちがぐるぐると肩を回す。
……あの大きな手で肩を気持ちよくされちゃうんだ……。
「みやっちせんせー、一思いにお願いします……!」
「そんな大げさな……まぁ、いくぞ。痛いところがあったら教えてくれ」
ピースサインを作ると、彼との距離がさらに近づいたのがわかる。
真後ろに強くて、大きい男の人の身体を感じている。
「はーい、力を抜いて……」
まず、みやっちはほとんどゼロの力であーしの肩周りを撫でまわす。
それから徐々に力が込められていって……凝っている箇所を探しているのかな。
「っう、あっ……」
「悪い! 痛かった?」
「あ、ううん。気にしないで……」
思わず声をあげてしまった。意中の相手に体を触られるのはやっぱり感覚が違う。
直感があった。このまま続ければあーしは間違いなくおかしくなる。
だけど、サキュバスとしてのプライドもあった。
ここでやめてとは言えない。
「みやっちも……服の上からじゃあ、わかりにくいよね? だから、その……ほら」
そこまで言うとあーしは来ていたシャツを脱ぐ。
やられっぱなしじゃいられない。あ、あーしだって攻めるんだから……!
「直接……お願い?」
「わ、わかった……」
頬を朱色に染めたみやっち。でも、あーしだって同じくらい真っ赤になっている。
顔が熱い。やばい。火傷しそう。
自分のすべてが見られちゃっている。
白い首筋の肌。浮き出した鎖骨と窪み。その先の大きな膨らみに続く。
さらに欲望を呼び寄せるのは肩にかかる黒いブラジャーのヒモ。
みやっち視点から見えるのは、こんなところだろうか。
「……く、黒って……」
「んっ……どうしたの、みやっち? 続けて?」
「お、おう」
「大丈夫だから。あーしは気にしないで、ね?」
そうは言うものの、こんなにも彼を男の子として意識してしまう。
だけど、ここで変にマッサージを注視にさせてやましいことを考えているとバレたくもない。
無心だ。無心でいればだいじょうんっ……!
「んっ、あっ……そこ、もうちょっと強く……っっ!」
みやっちがマッサージを再開した途端、あーしの体に電流が走った。
布越しと生とではこんな違いがあるのか、と脱いだの心底後悔していた。
快感が違う。さっきまでとは大きく異なる。急に体温がポカポカと温まってきた。
そんな状態になっているとも気づかず彼は手を動かし続ける。
「これなんかっ……どうだ?」
ぐにぐにとほぐしてから、肩全体に覆い被さるように手を置くと、一気に掴み上げる。
男子特有の大きな手によって吸い付くように引っ張られ、固まった筋肉を揉み解いていく。
「あぁっ! くぅ……んんっ!!」
甘い声を出してあーしは思わず前かがみになってしまう。
ふと目の前にあった鏡台に映った自分と目が合う。
意識ここにあらずと、うっとりした表情だ。
赤く染まった目元が色っぽい。ほつれた後ろ毛や、うっすら涙を滲ませた瞳がまるで普段の自分とは別人みたいだ。
「ラストスパートいくぞ、パコリーヌ!」
「んぅっ……! ぁぁっ……!」
もう声を我慢するのは限界だった。
みやっちが一気に攻める。確実にあーしの気持ちいいツボを指で押していく。
肩の端から首の根元まで徐々に移動していき、優しく、それでいて的確に弱い部分を突いていく。
「ひゃっ、ぁ……ぁ……!」
「もうちょっとで終わるからな、パコリーヌ!」
「う、うん、がんばりゅっ!? んぁ、ひゃうぅぅっっっん!!」
ビクンと体をのけぞらせて跳ねる。
だらしなく開いた口からは透明な液体が垂れていた。
下着も乱れ、あと少しでも捲れてしまえば、ツンと尖った桃色の突起が露わになってしまうかもしれない。
だ、だめ……。気持ちよすぎて、もう何も考えられない……。今もこんな格好で……でも、嫌じゃない不思議な感覚。
「はぁ……はぁ……。どうだ、パコリーヌ。良かっただろ?」
ニコリと笑って自信ありげに感想を求めてくるみやっち。
ちょっと頭を回してから、経過を思い出し、あーしは答えた。
「う、うん。また……また今度もお願い……しちゃおっかな」
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