第24話 淫語連打

 訪れるのは一瞬の静寂。


 ユキナは徐々に愉悦に顔を染めていく。


「ははははっ! 言ったわね! 淫語を!」


 そうだ。俺は確かに言った。


 世間一般的な・・・・・・淫語を。


「どう? 体が熱くなってきたでしょう? ヤりたくてヤりたくて仕方なく……」


 手を叩いて喜んでいたユキナの勢いはどんどんとしぼんでいく。


 それもそのはず。


 なぜなら、俺の体に異変は起きていないからだ。


「……そ、そっか。まだ一回だけだものね。それなら我慢できる人も」


「お〇んぽ!」


「なっ……!?」 


 彼女の現実逃避を否定するようにもう一度、淫語を口にする。


 通常ならこれで性欲4倍。


 しかし、やはり俺に異常は現れない。


「ウソ……ウソウソウソ!?」


 頭を抱えて、驚愕に染まるユキナ。


 ……ああ、そうだ。


 俺はそんな顔が見たかった。


「どうして……!? それだけ淫語を口にしていれば、もう今ごろムンムンで我慢が効かなくなっているはず!? なのに、どうして!?」


「まだわからないのか?」


 俺は一歩ずつ彼女に近づいていく。


「お〇んぽはお前にとっては淫語だ。だが、俺にとっては淫語じゃない・・・・・・


 彼女の【感度淫魔化】の魔法にかかっているのは俺だ。


 ならば、何をもって淫語と判断するのか。


 彼女との会話から導き出した答えは、俺の感情で判断する、だ。


 ユキナはずっと俺を貶めたい発言をしていた。


 情けなく、言いたくもない淫語を口にして、羞恥に悶える。


 そんな姿を見たがっていた。


 世間一般的に淫語を話すには多少の多少の照れや恥ずかしさを持ってしまう。


【感度淫魔化】の魔法はその感情をトリガーに発動するのだろう。


 彼女の過激的な性格からして、ほぼ間違いないと踏んでいた。


「ふ、ふざけないで! 人間はおっぱいだって口にするのもためらう……! 授乳プレイ中なのにママと呼ぶのさえ恥ずかしがる意味の分からない種族のはず……!」


「かもしれない。だが、俺は違う」


 俺はおちん〇を格好いい言葉だと思っている。


 なぜなら、おちん〇は俺にとっての相棒であり、この天獄学園で正義を貫くための武器でもあるから。


「おちん〇がついていないと漢とは名乗れねぇ。つまり、これはなによりも漢の証明でしかならない」


「ひっ……!?」


「それを淫語? さすがはサキュバス。頭の中が桃色一色だな」


「ち、近寄らないで!」


「まだ現実が見れていないようだな。どちらが上の立場にあるのか、俺が教えてやろう」


 大きく吸い込んで肺に息を溜め込む。


 先ほどやられた意趣返しに彼女の耳元に顔を近づけて、すべて吐き出した。


「お〇んぽ、おち〇ぽ、おちん〇ぉぉぁぁ!!!」


「ひぃぃぃぃぃっ!?」


 先ほどまでの余裕は失われ、ユキナは情けなく椅子から転げ落ちる。


「へ、変態……!」


「まさかサキュバスに変態扱いされるとはな。一生自慢できるよ」


 ガチャリと後方で扉が開いた音がする。


「あ、ありえない……! こんな……こんなバカな方法で私の考えた作戦を破るなんて……」


「大真面目にバカをやる人間も世の中に入る。覚えておくんだな」


「くっ……! 劣等種の癖に……!」


 戦意を喪失してもまだそれだけの威勢があるのは褒めるべきか、愚行と笑うべきか。


 あの口の悪さは染みついたものなのだろう。


 やはり彼女の性格は腐っている。


「……勝負はついたわ。あなたの勝ちよ。外に出なさい」


「なに勘違いしているんだ、まだやり残したことがある」


「……えっ」


「俺は言っただろう、地獄へ叩き落してやる、と」


 眼を閉じれば鮮明に浮かび上がる今まで遭ってきたエロハプニングの数々。


 同級生に金玉を揉まれ、股間を撫でられ、おっぱいに挟まれ、濡れたパンツを見せられた。


 それらを一気に思い返せば、自然と発生する現象がある。


 そう、勃起だ。


「【幻光の性刃ライト・オブ・セイバー】!!」


 けたたましく、強く股間から伸びる光の棒。


 勢いのあまりユキナの頬をかすめて、壁へと突き刺さる。


 腰を抜かしたユキナは立ち上がれず、その場でへたり込んだ。


「な、なに……このサイズ……」


「……お前がバカにした友だちごっこの思い出が、俺をここまで興奮させたんだ」


「そ、それにしたって、どこからこんな魔力を……ま、まさかあなた……!」


「ああ……俺は寸止めを繰り返して、金玉がパンパンになるくらい貯めまくったのさ」


 明朝、家にやってきたパコリーヌに頼んだのは手コキからの寸止めだった。


 俺は自分の意志の固さには自信がある。己の手で続ける手段もあったが、最善を尽くしたい。


 パコリーヌなら必ず俺の意思をくみ取って、やり遂げてくれる。


『みやっち、頑張ってっ……。ダメだよ? 果てちゃったら終わり、ユキナに負けちゃうっ。よわよわサキュバスなんかに負けないわからせ棒、作っちゃお?』


『ぐぉぉぉぉぉっ……!』


 結果として作戦は大成功だった。


 気絶してしまったものの聖なる魔力の大量生成に成功した。


「ふ、ふざけないで! そんなの無理よ! 濃い匂いを漂わせてたらサキュバスが我慢できるはずが……!」


「やってのけたのさ。お前がバカにした俺の友だちはな」


 パコリーヌだって辛い思いをしたはずだ。


 それでも笑顔で、最後まで手コキ以外はしなかった。


 それぞれの性欲よりも友情が勝ったのだ。


「悪い子には躾が必要みたいだ」


 ベチンと頬を【幻光の性刃】でたたく。


「一つ忠告しておこう、ユキナ」


 往復するように今度は反対側からユキナの頬をまたはたく。


「童貞はこういう加減がよくわからない。経験がないからなぁ」





「わからせてやる。覚悟するんだな」


「ひぃぃぃぃぃっ!?」





    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 倉庫の中に宮永が閉じ込められて数十分。


 私たちは外で彼の生還を待っていた。


「……無事でいますように」


「いっぱい遊ぶんだから……お兄ちゃん、帰ってきて」


 パコリーヌは指が真っ赤になるくらい強く握りしめて祈り、フローラは扉を見つめている。


 その扉の前には門番のようにリミミが立ちふさがっていた。


「んふふ~それにしても意外だったな~」


「……なにが?」


「血気盛んなクラリアちゃんだったら三人がかりでリミミから鍵を奪おうとすると思っていたから」


「その必要はないと判断したからよ。宮永は自分の手でそこから出てくるわ」


 確かに考えなかったと言えば嘘になる。


 だけど、彼は扉が閉まる前に必ず戻ってくると約束した。


 ならば、それを信じて待ってやるのが筋というものだろう。


 わかっていた。


 ユキナが私の過去を暴露しようとしたとき、私以上に怒ってくれていたこと。


 ……それが少しだけ嬉しかった。


 だから、彼を真似して信じて待つことを選択したのだ。


「えぇ~無理だよ~。ユキナちゃんに勝てる童貞なんていないって」


「宮永を舐めないことね。彼はちょっと頭のネジがおかしいから」


「……ふーん」


「あと、その気持ち悪い喋り方やめなさい。もう素性を隠す必要もないでしょう」


「ん~、なんのこと? リミミ、わかんないや」


 すっとぼけるリミミ。


 私とユキナは昔からの顔見知りだ。その従者であるリミミについてもよく知っている。


 本性は似た者同士のユキナの崇拝者。


「リミミが言うことを聞くのはユキナちゃんだけ。落ちこぼれのクラリアちゃんが命令なんて」


 ガチャリ。


 彼女の言葉を遮るようにドアが開く音がした。


 ニィとあざける笑みを浮かべるリミミ。


 彼女はユキナの勝利を確信しているようだ。


「おかえりなさい、ユキナちゃん! 今回も上手く、い……って……」


「……ふん。遅いのよ、バカ」


「悪い。少しだけ手間かかってな」


 ドアから現れたのは五体満足の宮永だった。


「みやっち~!」


「お兄ちゃん……!」


 二人は駆け出して、宮永に飛びつく。


 彼はよろけながらも二人の抱擁を受けきった。


 私もその輪の中に入って、肩を小突く。


「おかえりなさい」


「……ただいま」


 彼はいつもの柔和な笑みを浮かべる。


 一方で荒れているのはリミミだ。


「な、なぜお前が……!? ユキナ様! ユキナ様はどこだ……!?」


 あっさりと化けの皮がはがれた私たちをどかして宮永の胸元を締めあげる。


 対して彼は視線を倉庫へと向けた。


「もう出てくるだろうさ。……ほら、ご主人様の立派な姿を見てやれよ」


 全員の視線が倉庫へと集まる。


 コッコッと足音が響き、現れたユキナの姿は……とても以前までの覇気ある姿ではなかった。


「ユキナ様……! ユキナ様……?」


 はぁはぁと鼻息荒く、どう見ても平常じゃない。


 宮永はそんな彼女の隣に立つと、ポンと肩に手を置いた。


「ここまでやるつもりはなかったんだが……まぁいいか。ユキナからみんなに言いたいことがあるらしい。聞いてやってくれないか?」


 彼がそう言うと、ユキナは貴族としての無駄一つない所作でひざを折る。


 片膝ずつ地につけ、手を添えると、ゆっくり頭を下げた。


「ユ、ユキナ様……?」


 動揺を隠せないリミミの声が震える。


 それもそうだ。


 あのユキナが私たちに対して土下座をしていたのだから。


「ク、クラリアさん……パコリーヌさん……フローラさん……。バカにして……ごめんなさい……!」


 ポカンと開いた口が閉まらなかった。


 ……謝罪? あのプライドの塊のユキナが?


 誰もが唖然とし、時間が止まったかのように錯覚する中。


 静寂を切り裂いたのはきれいな土下座を決め込んでいたユキナだった。


「い、言われた通り、謝罪しましたぁ……大吾様♡ で、ですから、この卑しい雌豚にご褒美を……ご褒美をくださいぃぃぃ……!」


「「「……は?」」」









 ◇誓って童貞を失うことはしていないです。おしおきだけ。おしおき◇

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